リレーメッセージ「第4回 ピーター・バラカン(ブロードキャスター)前編」

記事中、ピーター・バラカンさんは「バラカン」、今井一は「今井」と表記しています。


事実を隠して言わなかったことを棚に上げて、白々しいといったらない。
あの白々しさ、僕は許せない。

今井:バラカンさんはロンドン大学の日本語学科をご卒業でしたよね。
 私は80年代にワルシャワ大学日本語学科の学生や先生方と、かなり交流があったんですが、ロンドン大学日本語学科はどんな感じのところなんですか。歴史は古いんですか。


ピーター・バラカンインタビュー前編バラカン:歴史は古いかな。始まったのは確か第二次世界大戦中。スパイ活動つまり諜報活動の一環で始まったんだと思う。

今井:あの大戦中、日本は敵国だったから。

バラカン:イギリス側の誰かがきちんと言葉を習得しないことには、軍国主義だった日本が何を話しているのか、どんな企みを持っているのかがわからないということだったんじゃないかな。

今井:それで、バラカンさん自身が数ある学科の中から日本語学科を選ばれたのは、なぜなんですか。

バラカン:理由はない。ものすごくいいかげんです(笑)。

今井:でも、とりあえず経済学部にというのはあっても、とりあえず日本語学科にというのは普通ないですよ。

ピーター・バラカンインタビュー前編バラカン:語学好きっていうことがあったね。語学が好きだったら意外と行っちゃう。特に日本に興味があったというわけじゃないし。日本社会がどうなっているのかも知らなかった。例えば日本語を表わすのに漢字があって平仮名があってカタ仮名があってなんて当たり前のことも、何にも知らなかった、語感がどういう語感なのかとかもわからない、ものすごく甘い考えでしたね。

今井:じゃあ、ご苦労されたでしょう。

バラカン:それなりにね。

今井:卒業されてから日本に来たわけですよね。

バラカン:日本へ来たくて来たわけじゃなくて、音楽関係の仕事がしたくてロンドンのレコード店で働いていたら、日本の会社が求人していて、その広告を見て応募したの。

今井:そうだったんですか。それで日本へ来られたのはいつなんですか。

バラカン:昭和で言うと49年。

今井:ということは1974年。 

バラカン:最初のオイルショックの翌年ですね。経済成長の真っただ中だったんだけど、大学に入る前まで、日本については、本当にGEISHA・FUJIYAMAといったステレオティピカルなイメージしかなかったね。

今井:それが今や日本人以上に日本社会を鋭く捉えているわけですが、広い意味ではバラカンさんの仕事もジャーナリズムの枠の中に入ってますよね。

バラカン:いや、僕はジャーナリストでも何でもなく、あくまで一つの報道番組を司会者の立場でずっと担当しているから、欧米の社会事情について、それなりに詳しくなったという程度で。それ以外に、日本の国内政治などについて何を知っているかと言ったら、ほとんどわかってないですよ。

今井:とはいえ、3・11以降の日本のジャーナリズム、マスメディアについては、おかしいぞと思われたことがあるのでは。

バラカン:おかしいということには、とっくに気が付いてました。テレビのニュースを見ていてね、どこの国でも国内ニュースがメインになるのは仕方がないんですよね。でも、日本はあまりにも、世界で大変なことが起きているのにもかかわらず、それを全く報道せずに、国内のスポーツの話題とか、お天気のこととかね。
 この国には毎年台風が来るのはわかってるんだから、いちいちそれをトップニュースに持ってこなくてもいいでしょ。スポーツの国際大会で日本人がメダルを取ったからといって、それがその日のトップニュースでなくてもいい。そういう意味では、この国のジャーナリズムはどっか故障してるということに、とっくの昔に気付いてました。要するに、価値判断というか、優先順位というものがどっか狂ってるよね。
 日本の方と話していると、まずね、世の中で起きていることに興味を持たない人が多すぎる。それと、世界で何が起きているかを知らなさすぎる。詳しいことは勿論知らなくても当たり前だけど、戦争や紛争になっているっていう国がどの辺りにあるかも知らない。例えば、山本美香さんが撃たれたあのシリアに隣接する国を二つ挙げてみなさいと言っても答えられないとかね。


ピーター・バラカンインタビュー前編今井:バラカンさん、隣接する国どころか、シリアが地球のどこにあるかを知っている日本人はほとんどいませんよ。

バラカン:かもしれないね。

今井:その日本のジャーナリズムに対する不信感というか嫌悪感というものが加速度的に増幅したのは、やはり3・11以降ですか。

バラカン:そうです。もちろん、福島の事故以降、当時官房長官だった枝野さんが記者会見の時に見せたあの顔。あの顔の表情が全てを物語っていたんですよ。あの人ね、たぶん悪い人じゃないと思うんだけどね、立場上本当のことを言わせてもらえないというところもあるでしょう。とにかくね、顔見て、「あっ、この人は嘘をついている」と思った。誰でもね、本能的にわかると思う。

今井:「ただちに人体、健康に害が無い」ってあのセリフですか?

バラカン:あの言葉一生聞きたくない。今は「ただちに」って言葉を聞いただけでもぞっとするんですよ。
あの時から、これは絶対嘘だと思ってた。でも、インターネットがあるからね。海外のメディアを見てると、みんな、事故の二日目くらいから「メルトダウンしているに違いない」ということも言ってたのに、日本のメディアはずっと後になって「事故の翌日にメルトダウンしていた」なんて言ってる。自分たちが二カ月も三カ月も、事実を隠して言わなかったことを棚に上げて、白々しいといったらない。あの白々しさ、僕は許せない。どこのテレビ局も、テレビを見ている人たちの記憶力がそんなにも悪いと思っているのか、馬鹿にしているよ。


今井:それは本当にそうですよね。今回も呆れました。首都圏反原発連合のみんなが官邸の中に入って野田首相と会ってきましたが、ずっと支援していたIWJとかはその取材が許されなくて、大手メディアしか中に入れさせない。

バラカン:岩上さん入ってなかったでしょ。

今井:田中龍作さんが会談後に開かれた首都圏反原発連合の記者会見で質問したんです。「我々が官邸に入れなかったのは、あなた達が断ったのか、政府が断ったのか、いったい誰が断ったのか」と。そうしたら、ミサオさんが「私は、政府サイドが記者クラブに遠慮して入れなかったと聞いている」と言ってました。

バラカン:遠慮した?

今井:記者クラブがフリーランスやIWJの官邸内立ち入り取材を断る形にしないで、政府が一応断ったんだけれども、それは記者クラブの気持ちを斟酌したと。馬鹿げてますよね。

ピーター・バラカンインタビュー前編バラカン:んんー。この国は本当に絶望的だね。実は今日のラジオの番組で読ませてもらえるんだったら読みたいと思ってるんだけど、朝日新聞の小田嶋隆さんの記事。先日の朝日に載っていたインタビュー記事で、「小さい政党に票を入れるということは、ある意味票を捨てることになるんだけれど、でもね、圧倒的多数の人が小さい政党に投票すれば、それは強いメッセージになる」という内容。もうね、今の民主党ダメだわ。かといって、自民党はもっとダメ。
 ま、僕は参政権持っていないから悩まずに済むけどね(笑)。この国は本当にそろそろ革命でも起こさない限りダメだと思う。


今井:本当にそう。ちょっと上っ面だけいじくるようなことをしてもだめ。根こそぎ改める革命的なことをやらないと。89年の東欧みたいに。当時、絶対に変わらないと見られていた東ドイツが変わった。日本の官邸前デモは金曜日だけど、東独のライプツィヒでは、あの恐怖体制下で毎週月曜日に数万人規模のデモが起こってそれがベルリンに波及していき、やがてチェコのプラハにも。ついにはバーツラフ広場に連日30万人が集まり、共産党政権を打ち倒すビロード革命が実現しました。それが、バルト三国のソ連からの独立やソ連崩壊へとつながっていく、いわゆる東欧連鎖革命ですよね。私はずっと、それを現場で見聞きしました。

バラカン:あの頃は、ほんと、わくわくする時代だったよね。


ピーター・バラカン プロフィール
1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「Barakan Morning」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「CBS60ミニッツ」(CS ニュースバード)、「ビギン・ジャパノロジー」(NHK BS1)などを担当。著書に『200CD+2 ピーター・バラカン選 ブラック・ミュージック アフリカから世界へ』(学研)、『わが青春のサウンドトラック』(ミュージック・マガジン)、『猿はマンキ、お金はマニ 日本人のための英語発音ルール』(NHK出版)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社+α文庫)などがある。twitterのアカウントは@pbarakan


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コメント

  1. 吉永志保 より:

    ピーターさんはもうこの原発事故が起こる前から、原発は活断層の多いこの国には危険だとおっしゃっていました。
    怖いことにほんとうに事故になるなんて。
    これからもこの活動されているかたがたを支援していきたいと思います。


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