住民投票で切り拓いた、ドイツ初・市民電力会社の設立: 第二回 シェーナウのまちを訪ねて
都民投票のスタッフだった大芝健太郎氏が、映画「シェーナウの想い」の舞台となったドイツのシェーナウ市を訪れ、関係者にインタビューを行いました。「住民投票で切り拓いた、ドイツ初・市民電力会社の設立」と題して、3回に分けてレポートを掲載します。第2回目では、実際に訪れたシェーナウの町の様子をレポートします。
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町の入口に掲げられた看板
いくつかの山を越えながら一週間、ようやく黒い森の南部シェーナウの町にたどり着いた。町の入口には「ドイツの太陽の首都 黒い森のシェーナウ」と看板が掲げられている。名物は「パノラマゴルフ場、ベルヘンランドのハイキング、代替可能エネルギー、草で覆われた谷の大聖堂」であるらしい。長い闘いの末に市民が立ち上げた「シェーナウ電力(EWS)」の扱う代替エネルギーが、今では町の名物の一つになっているのだ。見渡せば、確かに多くの家の屋根には太陽光パネルが設置されており、山の上では発電用のプロペラが風を受けている。夜道を照らすのは、LED電球の光だ。
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シェーナウの町の全景
映画で見る通り、半日もあれば十分全体を見て回ることができる小さな町である。全景をカメラに収めようとちょっと中心部から離れたところで(ちょうどこの写真を撮っている時だ)、後ろから声をかけてくる女性がいた。レナーテ・シュミットさん。地元在住の芸術家である彼女の作品は、町のいたるところで見ることができる。僕がEWSに興味があるのだと告げると「じゃあ、ウルズラ・スラーデックさんに伝えておくわ」と、EWSの代表の名を言うからびっくりしてしまった。聞けばシュミットさんは、初期の「原発のない未来のための親の会」のメンバーの一人であり、スラーデックさんとはママ友どうしだという。彼女が紹介してくれたおかげで、私はスラーデックさんに単独インタビューをさせてもらえることになった。(このインタビューは次回!)
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大屋根一面に太陽光パネルが取り付けられた教会
このプロジェクトは、住民投票の後、ラインフェルデン電力会社(KWR 既存の電力会社)側とEWS側双方の市民の共同出資によって始められた。つまり、住民投票で分断された町民の、和解のシンボルだ。映画の中ではここで教会の説明が終わるのだが、実はこの話には、もっとうれしくなるような続きがある。太陽光発電を設置することによって得た利益で、教会は新しいパイプオルガンを購入することができたのだ。ドイツ人のネーミングセンスは何のひねりもないことが多いのだが、これもご多分に漏れず「太陽のオルガン」という単純な名で呼ばれている。そしてオルガンの上部には、太陽の模様が誇らしげに輝いている。太陽光発電は15年たった今でも元気に稼働しており、どのくらい発電しているのかを、電光掲示板でいつでもだれでも確認することができる。
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ゴミ箱には「私たちは核のゴミを後に残しません」のステッカーが
「EWSに興味があって来ました」と言うと、町の人は嬉しそうに当時のことを話して、親切にしてくれる。観光案内所の前を通ると、町のお祭りのために集まる音楽隊に出くわした。彼らにEWSのことなど聞いていると、「演奏しながらパーティー会場まで行進するんだけど、一緒に来ないか?」と誘ってくれる。そのまま音楽祭と食事会に参加させてもらえたのは言うまでもない。その夜泊まったゴールドマンホテルも屋根に太陽光パネルが載せられていたのだが、私の話を聞いて、また貧乏旅行に同情してか、宿泊料金を割り引いてくれた上に昼食までサービスしてくださり、ありがたくも恐縮してしまった。
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観光案内所前に集った、謝肉祭のための音楽隊
「もっとシェーナウのことを知りたい!」という方にはこちらの本をおススメします。
田口理穂 著「市民が作った電力会社―ドイツ シェーナウの草の根エネルギー革命―」(大月書店、2012年)
プロフィール
大芝健太郎(27)旅するジャーナリスト
スイス、リトアニア、ブルガリアなど、ドイツを中心にヨーロッパの住民投票・国民投票を現地取材。「原発」国民投票賛同人。
Blog: http://shibaken612.blogspot.com
2014年6月18日 | コメント/トラックバック(0) |