スコットランド独立住民投票 現地レポート第1回
(スコットランド、大芝健太郎 2014年9月17日)
9月18日にスコットランドでイギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)からの独立を問う住民投票が行われる。
スコットランドは1707年よりイギリスの構成国の一つとなった。しかし、1997年の住民投票を受けて翌年に設立されたスコットランド議会では、独立を党是とするスコットランド国民党が議席を増やし、2011年には単独過半数を獲得。2012年には「独立」住民投票をイギリス首相にも認めさせて今回の住民投票が決まった。
ここ一週間の世論調査では賛成派、反対派の支持が大変拮抗しており、どちらが勝つにしてもその差は僅かになることが予想されている。最新の世論調査ではどこのものかによって若干ばらつきがあるが、賛成派が48%、反対派が52%だ。
ここで、両派の主な独立に関する主張を紹介したい。
独立支持派の主な意見
現在スコットランド選出の議員59人のうち保守党は1人しかいないのに、イギリス議会では保守党が与党を担っている。このようなスコットランドの民意と中央政府とのねじれが頻繁に起こってしまっている。
北海油田の利益がスコットランドに直接得られることで、少なくとも今よりは豊かになると主張している。
スコットランド最大の都市グラスゴウから16kmほどしか離れていないところに、イギリス軍の原子力潜水艦などの核兵器が配備されており、住民は不安な日々を送らされている。
スコットランド国民党は、この民族主義的な理由を公の場で発言することはない。しかし、支持者の中には、こういった理由で独立したいと考えている人も少なくない。
独立反対派の主な意見
独立賛成派はポンドを使うと主張しているが、イギリス中央政府は「イギリスから抜けるということは、ポンドからも抜けることだ」と主張している。実際に交渉が始まるのは独立賛成派が住民投票で上回ってからになる。
スコットランドで営業している企業のうち「独立するならばスコットランドから撤退する」という企業もある。そのため、今までと同じレベルの社会保障(年金や国民健康保険)を維持するためには税金の値上げをしなければならないだろうと心配している人もいる。
もし、イギリスから離脱してEUにも入れないとなれば、世界から孤立してしまう可能性を心配している人もいる。
独立しなくても、今まで以上にスコットランドに権限が与えられるなら、わざわざリスクの高い選択をする必要はない。このように少しずつ、権利を手に入れていけばいい。
思い描いていたとおりの住民投票
投票日を二日前に控えて、世論調査でも賛否がかなり拮抗しているのだが、暴力やテロなど、きな臭い事件が起きているという話はほとんど聞かない。それはなぜなのだろうか。
僕は理由は二つあると考えている。まず、一つ目はこの住民投票では両派が自由に活動することができるからだ。弾圧や報道規制などがあれば、抑制された方は暴発するしかない。口を塞がれれば手が出てしまうというのは、ある意味仕方がないかもしれない。しかし今回のキャンペーンでは、互いに活発に意見や情報を出し合うことができている。
そして、二つ目の理由はこの住民投票を推進しているスコットランド国民党が「民主主義」を求めて独立運動を行っているからだ。上記の独立賛成の意見でも紹介したが、スコットランドのイギリス政府への影響力はとても小さいため、民意が反映されないことが多い。民主主義は暴力などでは得ることはできない。
独立賛成派のマシューさんはこう話す。「私たちが求めているのは、分離や排除によって得られる独立ではない。通常18歳からの選挙権を拡大して16歳からにしたりしている。スコットランドはEUに入って移民も受け入れようとしていますが、逆にイギリスはEUから抜け出そうとしています。これはそんな『ウェストミンスター(イギリス議会)からの独立』なのだ。つまりウェストミンスターに支配されたままでいるのか、それとも本当の民主主義を市民が望むのかどうか。私たち独立賛成派は今、巨大な力の前に立ちはだかっている、彼らは圧倒的な資本を持ち、政治を支配し、メディアをコントロールしている。それに対して私たちは自分のコミュニティーを信じて、地域の資源を活かして、豊かな家族も貧しい家族も等しく平等な機会が与えられる社会の実現を目指している。これはスコットランドだけの運動ではない。西欧諸国、いや全世界の欲深い、道徳心のない権力者の支配から、民主主義を取り戻す革命なのだ」
この住民投票によって市民の政治参加意識を高められているということもわかる。スコットランド人女性のエリーさんは「こんなに自分の一票に力を感じたことはない。実は選挙の投票に行ったことは1回もないのだけれど、今回は投票しようと思っている」と話す。
また、公園で声をかけた若い女の子達はなんと14歳だったのだが「学校でも周りの人達と独立をどうするかについて話をしている」のだそうだ。その傾向は誰に聞いても変わらない。また違う人たちに「日本では政治について話すことがあまりないのですが、どうして皆さんは独立や政治について話すんですか?」と聞くと「だって、みんな共通の話題でしょ?」と、事もなげに応えた。
こんなに盛り上がっている住民投票は初めて。
そして、これが僕の思い描いていた住民投票であった。
これまでリトアニア、ブルガリア、ドイツ、スイスなどの住民投票、国民投票の現地取材を続けてきたが、これほどまでに活気のある住民投票はなかった。街中で見られる賛成、反対の意思表示を示すステッカー。賛成派も反対派も(特に賛成派だが)自分の意見を表現することを、どこか誇らしく楽しんでいるように感じる。窓などに飾るポスター。胸に光るバッチ。連日賑わう紙面。週末の公園では両派が机やテントを出してお互いの情報を発信している。そこで議論が生まれたりもする。印象的だったのは賛成派の人たちと、反対派の人たちがすれ違うとき、にこやかにお互いにチラシを交換していたことだ。
日本でもいずれ、「原発」や「憲法」についての国民投票が行われるときが必ず来る。その時にはこのスコットランドの住民投票が国もテーマも違うが、大変参考になるだろう。構図は一緒なのだ。圧倒的な資金力とメディアへの影響力に対抗するには、市民の確かな情報ときちんとした議論、意見の違いなどを排除するのではなく、共に未来を歩むパートナーとして考えていく姿勢が大切なのだと改めて感じた。
投票日はとうとう明日に迫っている。
筆者プロフィール
大芝健太郎(27)旅するジャーナリスト
スイス、リトアニア、ブルガリアなど、ドイツを中心にヨーロッパの住民投票・国民投票を現地取材。「原発」国民投票賛同人。
Blog: http://shibaken612.blogspot.com
2014年9月17日 | コメント/トラックバック(0) |
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