(再掲)リレーメッセージ「第10回 笹口孝明(元新潟県巻町 町長)前編」

9月7日に開催するシンポジウム「POWER TO THE PEOPLE ~住民投票のバトンをわたそう」にパネリストとして参加する笹口孝明さんのインタビューを再掲します。ぜひご一読の上、シンポジウムにご参加ください。



笹口孝明 プロフィール
1948年 新潟県西蒲原郡巻町生まれ。明治大学経営学部卒業後、笹祝酒造株式会社入社。
1994年10月「巻原発・住民投票を実行する会」の立ち上げと同時に代表に就任。
町長リコール署名運動を起こし請求代表人となった後、1996年1月新潟県・巻町長に就任。
1996年8月4日、日本初の住民投票「巻原発・住民投票」を実施した。
2004年巻町長二期目の任期満了により退任し、現在は笹祝酒造株式会社の社長。


記事中、笹口さんは「笹口」、遠藤さんは「遠藤」、大芝さんは「大芝」、今井一は「今井」、と表記しています。


今井:笹口さん、きょうは東京から2人の若者を引き連れてお邪魔しました。2人とも、うちの会の仲間なんですが、大芝くんはジャーナリスト志望で、10月に実施されたリトアニアでの「原発」国民投票の現場にも足を運んでいます。遠藤さんは、慶應義塾大学で地方自治を学んでいるのですが、彼女は巻町の出身です。2人とも笹口さんに会いたい、話を聞きたいというので、その願いを叶えたということです。どうか御了解ください。
 さて、私たちは「原発」を国民投票や住民投票にかけるための活動を進めているんですが、残念なことに、原発反対派の一定数の人がそれに強く反対しているんですよ。
 例えば、30年以上反原発活動をやっている東京都議が、「原発」都民投票条例制定に反対にまわったりもしています。かつての巻町ではあり得ない話です。


笹口:何で反対してるのですか?

今井:その理屈は、絶対に勝てるんならいいけれど、負ける可能性があるから、やらないほうがいいというもの。私たちの会の賛同人で、「原発」都民投票の請求代表人を務めていた俳優の山本太郎さんまでもが、今は負ける可能性が高いと思うから反対と言って、賛同人を降りちゃったんですね。彼は、最初は、勝ち負けじゃない、勝ち負けと関係なく市民自治のためにやるべきだって言っていたのに…。今回の知事選で宇都宮健児さんがなぜ「都民投票条例の知事提案」を約束できなかったかというと、それはそういう人たちに気兼ねしたからです。きっと。

笹口:なるほど。

今井:で、私はまずそのことを笹口さんに伺いたいのですが、1996年8月4日に、日本で最初に住民投票を執行された、しかもテーマは「原発」。そして告示の日に出された「巻町民へのメッセージ」は非常にフェアだったと思うんですよね。条例に記されている「町長は住民投票の結果を尊重する」とはどういうことなのか、と。賛成多数なら建設の方向に向かい、反対多数であれば原発建設は認めず町有地を売却しないと、メッセージに明記された。どっちになっても、私はそれを尊重する。反対多数だったら呑むけれども、賛成多数だったら無視するなんて書いてないですよね。そのことをなかなかわかってもらえないんですよ。負ける可能性があったら、国民投票や住民投票を仕掛けたらダメとか求めたらダメという人がけっこういるんです。それについて、笹口さんどうお考えですか。

巻町民へのメッセージ

巻町民へのメッセージ
(クリックすると拡大します。必読!)


笹口:原発ができるかできないかというのがきわめて大事だからこそ、原発がテーマになって、住民投票するかしないか、主権者である国民がそれをジャッジするしないということがテーマになっているわけだけれども、その大事の前に、まず民主主義っていうのはなんなのか、主権在民とはなんなのかっていうのが一番大事。別な意味ですごく大事ですね。
 原発のことについては、国民一人ひとりが原発が必要だと思ったり、あるいは原発は危険だからいらない、ただちにやめるべきだとか何年後にやめるべきだとか、色々なそういう国民一人ひとりの選択があると思うけれども、まずその国民が原発のことをよく勉強して、理解していること。そして、自分のこととして問題意識を持っているかいないか。それがまず根底にあって、そして一人ひとりが熟慮をできる環境にあること。みんなが熟慮するためには、情報が提供され、それをみんながつかんでなけりゃいけない。
 だから、仮に今から3年くらい前に原発問題を国民投票にかけましょうといっても、3年前だったら私は無理だったと思う。というのは、国民が原発問題を本当に真剣に自分のこととして考える姿勢があったかどうかということが問題だし、情報がよく提示されていたかどうかということも問題です。そして考える時間があったかないか。そのどれをとってみても今から3年前だったらいわゆる国民投票のテーマとして提起はできるけれども、ただちに投票というのは難しい。いろんなことを…


今井:条件が整っていないと。

笹口:熟慮することが必要だし、賛成論・反対論が意見を交わしてそれをまた国民が見たり聞いたりということが必要だったと思うけれども、今、福島のこのすごい事故が起こったことを受け、原発のこと、放射能のことをみなさん自分のこととして十分考えている。国民一人ひとりが。全部じゃないにしても、かなりの情報が流れているし、その情報をみて、勉強している。しかも一年半もあの事件から経っていて、原発の再稼働を進めようとしているとか、またさらにいろいろなことが起きている。それを見ながら、事故が起こったときには「原発」反対とばかり言っていたが、実際に経済的な問題とか、産業的な立ち遅れがどうだとか、原発なしに次のエネルギーはあるのかとか、自然エネルギーが育たないじゃないかとか、いろんな推進派の逆襲もあった。

今井:まさに逆襲ですね。

笹口:だからね、鳴りを潜めていた人も、「原発」なしで本当に大丈夫なのかと新たなディスカッションが始まりつつある。

今井:賛否両方が土俵に上がってきたと。

笹口:そうそう。そういう、賛否両論が成立するような状況にまでなってきた。こういうときこそ、原発について、国民的な立場で、一人ひとりがある程度自分なりの考えが熟成されつつある。いやもう、されているかもしれない。
 こういう状況ではね、私は県民投票でも国民投票でも、その地域にとってのテーマとしても、あるいは国民的なテーマとしても、十分提起されてもいい状況になっていると思います。


今井:なるほど。状況は3年前とは格段に違いますよね。それはもう誰もが認めざるを得ない。普通にね、魚屋のおっちゃんや、乾物屋のおばちゃんが原発について客と普通に語り合うような時代になりました。前はあり得なかったですから。この町でも、ガンガン話してたのは、桑原正史さんや高島民雄さん、佐藤勇蔵さんら数人でしたからね(笑)。でも、今は違う。
 で、さっきの話に戻るんですが、それはわかっていると。わかっているけれども、メディアはいい加減だし、日本人は情報に流されやすいから、やったら負ける。だから国民投票や住民投票をやることを許さない。という人が多いんですよ、反原発派の中にもね。
 彼らが主権者の決定権を阻んではいけない、一人ひとりの権利なんですよ。原発推進を選ぼうが、反対を選ぼうが。その選ぶ権利までを奪っちゃだめ。
 だから自分の思う通りの結果にならないかもしれないから、都民投票はやらせないとか国民投票をやらせない。あるいは「原発推進」の自民党が大勝しそうだから選挙はやらせないというのはだめでしょう。その時点でどこが有利であろうが、衆議院も自治体選挙も必ず4年以内に選挙をしなくちゃいけない。笹口さん、そのあたり、最初に住民投票を執行された元首長としてどうですか。


巻原発・住民投票を実行する会の会合風景

巻原発・住民投票を実行する会の会合風景


笹口:私がさっき言ったように、国民、都民、あるいは県民が十分もう論議もできて熟慮を重ねて、県民投票なら県民一人ひとりが意思決定できるような状況にもうほぼあると思う。現在、一人ひとりがジャッジできる状況にあるわけだから、あとはそれがどういう結果が出るかということについて、自分の思った通りの結論が出なきゃ嫌だなんていうのは、一つのエゴだと思いますね。
 国民、県民は「原発」をどうするのかを選び、決める権利があるし、まさにジャッジする立場にある。現在は間接民主制が定着していますが、生命・健康・財産等に関係するきわめて重大な決定事項に関しては、やはり主権者である国民、住民に直接考えを聞く必要があります。単一テーマについて国民、住民に問いかけたときに、主権者である国民や住民が直接結論を出したなら、何がなんでも尊重しなきゃいけない。単なるアンケートじゃないし、ムードでもなく、「どっちが好き?」ってやったわけじゃないんだから。


今井:熟慮している。

笹口:そう。熟慮して、この問題についてよくあなたたちは勉強してるから判断できるでしょ、だからやりますから。あなたたちは主権者として、私たちみたいな少数の政治家の考えじゃなくて、主権者自ら判断してもらったその結論に従いますから、どうか判断してくださいというのが国民投票であり県民投票なんだから、やる前にどの結論だったら尊重するし、どの結論だったら尊重しないなんてのはあり得ない話ですよ。

今井:ということは、笹口さんがもし8月4日に町有地を東北電力に売却してもいいという結論が出たら、当然その結果に従っていたわけですね。

笹口:はい、もちろんです。私は住民投票の執行者としてまったく中立で、公正な立場にありました。それで、もし仮に私が投票の結果を町長として執行するにあたって、示された投票結果が個人としての自分の本意じゃないとしたなら、私はやっぱり辞任すべきですよ。こういう町民が、こういう結論を出して選んだ以上、こういうふうに進むべきである。しかし私は心の中では、それと違うことを信念として実はもっていたから、私は投票結果の執行者としては適任じゃありませんと、辞任すべきですよ。町民の選んだことを信念として執行できる、町長をまた選んでもらえばいい、と思うんですよ。

今井:なるほど。そういう覚悟だったんですね。
さて、若い2人何か伺いたいことがあれば。


遠藤:私は巻町で生まれて巻町で育ちました。今は慶應大学の法学部で、市民自治について学んでいます。住民投票が行なわれた時は5歳で、これまで詳しく知らなかったんですが、大学に入ってからそれが歴史的な出来事だったことを知り、とても誇らしく思っています。と同時に、巻で起こったこと、巻町民がやったことを、もっともっと全国の人に知ってほしいという思いがあります。
 それで、さっき話題になった笹口さんの「巻町民へのメッセージ」ですが、私もあれを読んですごく感銘を受けたのですが、この最後の一行に「巻町の将来は、巻町民みんなで決めてください」っていう言葉がありますよね。そうやって町の将来の選択について、巻町民の判断を信じることができたのはどうしてですか。


笹口さん

笹口さんを挟んで、遠藤結花さんと大芝健太郎さん
(笹口さんが経営する「笹祝酒造」にて)

笹口:その住民投票の前の状況として、巻町民は27年間の長きに渡り原発について、苦しみ悩んできて、声に出せたか出せなかったかは別としても、一人ひとりが思いをもっていたから、だから責任をもって一票を投じられたわけですね。当時買収とか、なんとかツアーとかいうのがあったとしても、それはほんの一部の話であって、そんなお金で買収されるような性格の投票じゃありませんでした。自分の将来、自分の子どもたちの未来がかかってるんですから。一人ひとりが責任をもって投票するっていうのは明らかでした。

今井:目先のことじゃないんですよね。

笹口:記者会見の時だったか、誰かが、私に買収とかなんとかで愚かな結果が出たらどうするんですかっていう質問をしてきたから、私はそんなことはないと。ないけれども、仮にあなたが心配するようなことがあったとしたら、巻町民はその程度でしかなかったということなんですよ、と答えました。

今井:そして、その程度じゃない町民だったっていうことがわかったんですね。

笹口:そうです。だから逆に言うと、その程度の町民じゃないから、私は、巻の将来は巻町民みんなで決めてくださいと言ったわけだし、将来を決めるに足る町民だったわけですよ。

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