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『「原発」国民投票』書評(9/4 東京新聞 読書欄)
今井一著(集英社新書・777円)
いまい・はじめ
1954年生まれ。ジャーナリスト。著書に『憲法九条「国民投票」』『住民投票』など。

-命に関わる選択国民の手で-
被災者をはじめ国民の不安を尻目に、原発事故から間もなく半年になるというのに、政権与党は放射能の除染態勢さえ整えていない。また最大野党は、安全と安価を謳い文句に、長年「責任政党」として原子力発電を推進してきた結果責任を取ろうとしない。
国債の格下げでも各国が認めるこの「三流政治」に、今後の原発政策を任せておけるのか。生存にかかわる国政課題は、主権者国民が自ら表決すべきではないか。選挙という人を選ぶ間接民主制は日常に使い、非常時の重要案件には政策を選ぶ直接民主制を活用したい。こうした思いからこの本は緊急出版された。
本書は「原発国民投票を理解し実現するためのガイドブック」である。既出のデータを手際よくまとめた資料集として有用だろう。前半では決定の方法として国民投票制度を解説するほか、イタリアや新潟県巻町など先行事例のルポが並ぶ。後段では、決定の内容として原発の是非をめぐる賛否両論を紹介している。
日本国憲法は、一部を除いて国民投票に慎重である。そこで本書は、スウェーデンのように法的拘束力を持たない「諮問型」の国民投票を提案する。これなら現行憲法の枠内だ。そして、その法案を市民がつくって国会に提示するともいう。
一般に先進諸国では、議会と国民・住民投票はクルマの両輪として機能を分担し、質の高い合意や決定を生み出すように制度が設計されている。アメリカやスイスの自治体議会は、住民投票で争点を明示するなど重要な役割を担う。投票には議会の賢い抑制が欠かせない。
ここに難所がある。日本では、国会が頼りないから大切なことは自分たちで表決したいとの主張だが、実施の前提となる投票法はやはり国会頼みなのだ。今の国会で原発国民投票法を成立させるのは、決して低いハードルではないだろう。議論を深めたいところだ。
評者 沼田良(東洋大教授〉

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    2011年11月28日