いばらき原発県民投票 最初の週末のレポート!

<水戸駅前での署名活動>

1月6日(月)、市民グループ「いばらき原発県民投票の会」(以下、「県民投票の会」)が茨城県庁で大井川知事から「請求代表者証明書」の交付を受け、「東海第二発電所の再稼働の賛否を問う県民投票条例」(条例案PDF)を直接請求するための署名期間がスタートした。

署名期間は2か月間。ほとんどの自治体では3月6日が最終日となるが、選挙があるため中断したり開始が遅れたりする地域があるので、全44市町村で署名期間が終了するのは4月中旬になる。そして、5月25日に条例制定の本請求を行い、6月議会で条例案が審議されることを想定している。

直接請求を実施するために必要な法定署名数は有権者の2%、茨城県の場合は約4万9千筆だが、県民投票の会としては県議会で条例案を通すために政治家にプレッシャーをかけ「説得力のある直接請求」(共同代表・徳田さん)にするためにも、2%を超えて一筆でも多くの署名を集めることを目標に掲げている。

県民投票の会は署名集め開始までに、県内の39市町村で合計71回の「県民投票カフェ」と呼ばれる対話会を実施した。また、事前に集まった受任者(予定者)の数は3500人だ。私たちの会が実施または強く関与した東京、大阪、静岡、新潟などの過去の例と比較しても、入念な準備が重ねられたと言っていいだろう。

請求代表者には3人が就任した。県民投票の会の共同代表を務める鵜沢恵一さん(ひたちなか市在住)、姜咲知子さん(石岡市在住)、徳田太郎さん(つくば市在住)の3人がそのまま請求代表者となった。

署名方法の説明

水戸の会場で説明をする徳田共同代表

署名期間が始まってから最初の週末となる1月11日、12日、13日の三連休には、県内16地域で署名説明会が開かれ、同時に街頭署名も行われた。いわば、地域別のキックオフだ。そのうち、11日の土浦と12日の水戸の説明会に参加してみた。

土浦と水戸の説明会の両方で、まずは共同代表の徳田さんが直接請求の説明や署名集めの注意点について話をした。本業がファシリテーションだけあって、人前で話すのはお手の物。いつもの通り、冗談も交えながら、分かりやすく、そして淀みなく説明を進めていた。

参加者には「受任者セット」と呼ばれるものが配られ、これには手紙、署名マニュアル(クリックするとPDFファイルが開きます)、署名簿、返信用封筒、払い込み用紙の5点が含まれていた。このうち、徳田さんは署名簿を使って説明を行った。(なお、ここでは説明の詳細は割愛するので、その内容を知りたい方は動画「県民投票・署名簿が届いたら?」を見てほしい。また、コント形式の動画「県民投票 署名集め大丈夫?編 ☆注意点をコントで解説、徳田太郎と にゃーこ と ぴーこ」も分かりやすい。)

受任者セットに含まれる署名簿には、5筆の署名欄がある。面白いのは、徳田さんの言葉を借りれば「わたし、ちょっと頑張っちゃおうかなぁ」という人向けに、45筆版の署名簿も用意されていることだ。5筆版しかなければ、たくさん署名を集める人は何度も委任欄に委任状の情報を書かなければならず、手間がかかる。一方、45筆版しかなければ「こんなにたくさん集めなければならないのか」とプレッシャーを感じてしまい、受任者になるのをためらう人もいるかもしれない。また、45筆版があることで請求の要旨などのページを印刷する枚数が省け、印刷コストという点でも利点があるだろう。

署名簿返信用の封筒は料金受取人払いとなっているため、切手を貼らなくても県民投票の会の事務所にそのまま送付することができる。しかし徳田さんは「料金受取人払いなので、後で会の支出が凄いことになります。もしも、切手を貼ってやろうという方がいらっしゃいましたら、大変ありがたい」と、切手を貼ることで「活動費の支援」を行うことをお願いした。直接請求の活動では、印刷費と同様、郵送費に多大な資金が必要になり、切手代はバカにならない。

会場からの質問が集中したのが、署名の細かなルールについてだ。せっかく集めた署名が審査で無効と判断されてしまってはたまらないという、受任者の必死さが伝わってくる。県民投票の会では、署名集めの開始に先立って県内44市町村の選挙管理委員会に署名の有効・無効の判断についてルールの確認をした。しかし、選管によって回答が違うことがあったという。たとえば、記入を間違って二本線を引いて訂正する場合、「訂正印は不要」という選管と「訂正印が望ましい」という選管があった。県民投票の会は、各選挙管理委員会から集めた情報を総合的に勘案した上で、間違いがない方法として自ら署名集めのルールを定義したという。

本来であれば、直接請求は地方自治法に基づく全国で行われうる活動であるのだから、署名の細かなルールにも全国的な統一性があってしかるべきだと思う。管轄する総務省から何らかのガイドラインが出されるのが望ましいのではないだろうか。それがないにしても、せめて都道府県の選挙管理委員会が総括して、県内市町村の選挙管理委員会によって差異がでないように調整すべきではないかと思わされた。

県民投票の会は、署名簿返却の集約日を二日設定した。1月24日を一次集約日、2月14日を二次集約日としたのだ。直接請求の署名集めでよくあるのが、終盤まで署名集めの進捗が把握しづらいことだ。一般的に受任者は署名簿をため込んで、署名期間のギリギリにまとめて送付する傾向がある。複数回送付するのに比べて手間がかからないし、郵送費も節約できるのだから当然のことだろう。会ではそれを見越して、徳田さんも「できるだけ小出しに」送付してもらえるようお願いしていた。一次集約日までに集まった署名数は、2月4日に発表される予定だ。この数字は、メディアからも注目を集めることだろう。

土浦での作戦会議

<小グループでの作戦会議

茨城県は広く、中央集権的に事務局がすべてを管理するのは不可能だ。県民投票の会では、市町村別に「世話人」と呼ばれる人を置き、その人を中心に市町村の署名集めを推進している。

土浦市では、小野村さんという方が世話人を務める。署名説明会の後半は、徳田さんからバトンタッチされ小野村さんのリードで進められた。各地の世話人によって準備の仕方や進め方は様々だったようなので、以下は一つの地域の例として捉えてほしい。

まず、土浦市全体を対象とした次の受任者交流会の日程が決定された。2月11日に県民投票の会が主催して水戸市内で中間報告イベントが予定されているものの、水戸市民を除けばそこまで足を運べる受任者は一部に限られるだろう。地域で全体会議を行い、進捗を確認し、ベストプラクティスを共有し、そして更なる作戦を練ることが極めて重要になってくる。

投影されたDVDの一コマ

小野村さんは次に、原発都民投票の会が作成したDVDの一部の映像を紹介して、署名集め用のバインダーキットや署名の集め方についての過去の例を示した。バインダーの実物を裏返してみせ、裏側に朱肉とティッシュが貼り付けられていることを説明すると、会場から感心する声が聞こえた。小野村さんは、参加者全員に配れるように事前にバインダーキットを用意しており(ただし、受任者が好きなようにアレンジできるように未組み立て)、説明会が終わってから土浦駅前で行われた署名活動では、受任者一人一人がマイ・バインダーを手にして署名活動に向かうことができた。

その後、参加者が地域別の小グループに分けられ、作戦会議がスタートした。 各グループに配られた白地図を見ながら、どこでどのように署名を集めれば効果的かが話し合われた。特に今後数回の活動を決めるのは重要だ。効率的に戸別訪問ができる団地や、署名スポットにできそうなスーパーなどの情報は小野村さんから提供されていた。隣の阿見町からも受任者が何人か参加しており、土浦市と阿見町の両方の市民が利用する駅で街頭署名活動をする際には、二つグループが共同して活動することなども確認された。

<土浦駅前での署名活動>

説明会の終了後、いよいよ土浦駅前デッキでの署名活動が始まった。少し緊張していそうな人もいた。もしかしたら、署名集めをするのが人生で初めての人もいたかもしれない。そこが、原発住民投票運動のいいところだ。市民運動をライフワークにしているような人も頼もしい限りだが、そうではない多様な人たちが参加するからこそ、この運動は面白いし、大きなムーブメントに発展させられる可能性を持っていると思う。

私も道行く人に声をかけながら、県民投票のチラシを配布した。受け取ってくれた人には署名をしてくださいとお願いして、OKがでれば受任者を呼んで署名をしてもらう。迷っている人には「地方自治法に基づいた正式な署名です。有権者の2%の署名を集めると必ず議会に県民投票の条例案を提出できるんです」とプッシュすると、何人かが署名に応じてくれた。街頭署名では、伝える内容もさることながら、一生懸命話して熱意を伝えることも大切だと思う。

署名をしてくれた人には、「一筆でも構わないので、ご家族やご友人から署名を集めることはできないでしょうか?」と尋ね、改めてチラシを見てもらう。読めば県民投票運動の概要が分かるのみならず、このチラシには受任者になり署名簿の郵送を依頼するためのハガキも付いている。署名数を広げていくためには、街頭で署名してくれた人に受任者になるよう働きかけることも重要だ。

水戸でのキックオフ

県民投票への思いを語る鵜沢共同代表

水戸では、3人の請求代表者が集結した。請求代表者の一人の鵜沢恵一さんは、原発問題のみならず、貧困などの他の問題も含め「いろんな考えの方がいろんな思いでちゃんと語れる社会」「議論して、対話して、一番いい社会はどういうものなのか、と話し合える社会」を目指しており、そのきっかけとなる県民投票には非常に共感できる、と運動に参加する理由を語った。(もう少し詳しい内容については、Webサイト掲載の鵜沢さんのメッセージをご覧ください)

また同じく請求代表者の姜咲知子さんは、「自分たちの食べ物を自分たちで作りたい」という思いから45年前に設立された農場で働き、暮らしていて、これは「自分たちのことを自分たちで決められる」社会を目指す県民投票とリンクしていると述べた。また「年配の方も、若いお母さんも、サラリーマンの方も、多様な方々が一緒に活動できる」ことを県民投票運動の良いところとして挙げた。

説明会の終了後、水戸駅北口と南口のデッキに分かれて、雨が降る中署名活動に多くの受任者が参加した。

●請求の要旨

水戸での署名説明会が始まる直前、配られた資料に目を通していると、共同代表の姜さんに「請求の要旨、良くないですか?各地の請求の要旨をよく読んだうえで、かなりの議論を重ねて決まったものなんですよ」と声をかけられた。確かに良くできている。茨城の請求の要旨(クリックするとPDFが開き、全文を確認できます)に特徴的なところを幾つかピックアップしたいと思う。

  • 「福島第一原発」「放射能」という単語が登場しない。脱原発色が無いよう徹底されているように思える。
  • なぜ県民投票が求められるのかの理由付けの前提として「団体自治」と「住民自治」に触れている。
  • 「熟議と対話」という言葉を入れている。「対話カフェ」を積み重ねてきた会の想いが感じられる。
  • なぜアンケート調査や選挙ではダメなのかを指摘し、「間接民主主義を補完する手段」として住民投票を位置づけた。いわば、議会審議で予想される県民投票反対論に対する反駁を埋め込んでいる。

クラウドファンディング

他にもこの運動の特色として挙げられるのが、クラウドファンディングを活用した資金集めだろう。静岡県御前崎市での住民投票の直接請求運動でもクラウドファンディングが利用されたが、原発住民投票を求める直接請求運動でクラウドファンディングが利用されたのは今回が日本で初めてだ。

クラウドファンディングのページを開くと、ポップなイラストが目に入ってくる。「茨城県初県民投票を実現したい!話そう 選ぼう いばらきの未来」というタイトルを体現するかのように、市民の参加により茨城の明るい未来が選ばれていく姿が描かれている。

目標金額を達成した場合のみ資金を受け取ることができる方式が採用されており、その金額は150万円に設定された。しかし、目標額の倍以上のお金を集めたいところだ。というのも、クラウドファンディングを開始するまでにかかった経費は約150万円。今後かかると見積もられている経費が350万円だからだ。

お金があればあるだけ効果的なキャンペーンを展開できるのだから、「これだけあれば十分」という数字は実際には存在しない。たとえば、都民投票のときは終盤に受任者にハガキを出して署名簿の返送をお願いしたが、これには相当なお金がかかった。また余裕があれば、愛媛県八幡浜市での直接請求署名収集で何度か行われたように、(茨城の場合は地域を絞ってということになるだろうが)新聞折り込みでチラシを配布することも可能になるだろう。

協力者へのリターンには魅力的な内容が並び、工夫が感じられるものになっている。県内外の31人の作家から協力を得て、陶芸などの作品が用意されていることが一番の特徴だろう。また、講座やワークショップの開催権も面白い。お礼のメール、進捗連絡、Facebookグループへの招待、報告書の送付といったリターンもある。

また新着メッセージページには、当会の賛同人でもある想田和弘さん(映像作家)が応援メッセージを寄せているほか、共同代表やリターン提供者のメッセージも掲載されている。筆者も、みんなで決めよう「原発」国民投票を代表してメッセージを寄せているので、ぜひ読んでみてほしい。 応援コメントもぞくぞく寄せられており、共同代表の姜さんが一つ一つのコメントに丁寧に返信しているところが印象的だ。

今後の動きと私たちにできること

今後の大きな動きとしては、2月11日に署名期間の中間イベントとして水戸市内の茨城県立青少年会館で「県民投票フェス vol.5 全国の経験者と語る 県民投票トークライブ」が開催される。東京、新潟、静岡、宮城、沖縄の直接請求に関わったメンバーが集結してシンポジウムなどが行われるのだ。筆者も、みんなで決めよう「原発」国民投票を代表してイベントに参加する予定だ。

茨城県民でなくても、どこに住んでいても実施できるのは資金的な援助だ。既に述べたクラウドファンディングの他、銀行振込、郵便振替、クレジットカードでの寄付もできるようになっている。詳しくは、いばらき原発県民投票の会のWebサイトを確認していただきたい。

また、会のFacebookページ会のTwitterアカウントをフォローして、その投稿を拡散してほしい。その結果全国にこの運動が知られるようになれば、それは回りまわって茨城県民にも届きやすくなるだろう。もちろん、茨城県民に知り合いがいれば、この署名集めについて直接知らせることは最も効果的だ。また、特に関東の人には、ぜひ一度だけでも現地に足を運んで、署名活動の応援に参加してもらいたい。いつどこに行けばいいのかは調整をするので、みんなで決めよう「原発」国民投票までご連絡いただきたい。  (運営委員長・鹿野)

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