ブルガリア「原発」国民投票・現地レポート(第8回) by しばけん

ブルガリア中央選挙管理委員会の最終報告

ブルガリア中央選挙管理委員会の最終報告

最終的な結果がブルガリアの中央選挙管理委員会から発表された。ブルガリア有権者が6,950,900人、そのうち投票人数は 1,405,463人 で投票率は20.20%、賛成が60.60%、反対が37.96%、無効1.436%という結果。前回の総選挙の投票人数に及ばなかったため法的拘束力は持たないが、20%を超えたため国民投票の結果が議会にかけられ、3ヶ月以内に審議されることになる。ちなみに20%を下回ると国民投票の不成立として、この結果は議会にもかからなくなる。投票率が20.20%なので首の皮一枚つながったという形になった。

ブルガリアの新聞記者ベセリン・ストイネフは去年の10月に行われたリトアニアの原発国民投票と今回のブルガリアの原発国民投票を比較して「考え無し、情報無し、恐れ無し」と批判した。

ブルガリアの新聞「ROAD」 「国民投票、考え無し、情報なし、」

ブルガリアの新聞「ROAD」
「国民投票、考え無し、情報なし、」

今回の原発国民投票はベレネの原発計画中止に反対して野党の社会党(BSP)が「ベレネ原発の建設を問う国民投票」を進めてきたものだが、与党の中道右派のGERBによって「新しい原発の建設の是非を問う国民投票」と変更され、コズロデュイのことなのかベレネのことなのか、それともそれ以外なのか…一体何について問われた国民投票だかわからなくなり、どう考えて投票していいのかわからないような状況で行われていた。次に、情報が行き渡っていない。新しい原発にはどれだけの予算が必要か、ブルガリアにはどれだけの電気が必要か、放射性廃棄物の処分はどうするのか…等の情報がほとんどの国民に知らされぬまま、情報が十分でない状況で行われた。更に、フクシマの現状や、チェルノブイリの悲惨な状況、そして、電力が足りなくなるのか…等。賛成派も反対派もこの原子力発電の深刻な問題点を意識することもなく、恐れがないままに、国民投票は行われてしまった。

リトアニアの国民投票の設問も「新規原発の是非」であったが、議論はビサギナス原発に焦点が絞られていた。そして、リトアニア人は「半年前から続く原発の論戦に飽きた」という人もいるほど議論されていて、原発をどうするかに関して、話を聞くと多くの人が自分の意見を持っていた。しかしブルガリアでは投票2,3日前になっても、どちらに投票するか、決めかねている人も多く「情報が足りないから判断できない」という人も多かった。実際に街頭アンケートで「今回の原発国民投票に反対」と答えた27人のうち19人は「もっと情報が行き渡ってから実施すべき。」を反対理由にあげている。

今回のブルガリアの国民投票は成功か失敗かと言えば。失敗だろう。設問は曖昧で、十分な情報が行き渡らず、議論も活発にならず、ボイコット運動も起こり、投票率も低かった。国民投票は万能ではない。やり方次第で、時間と情熱とお金に見合った結果が現れないかもしれない。しかし今回のブルガリアの国民投票でさえ、政治家の、原発や国民に対する意識を明らかにしたことは、今年の7月におこなわれる総選挙につながるだろう。そして伝統的な原発推進のブルガリアで、多くはないが、反対派の意見が求められたり、議論されたりしたことは、国民投票がなければ起こらなかった。


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プロフィール
大芝健太郎 しばけん
26歳 フリーライター
「原発」国民投票賛同人
「原発」国民投票 調査団のメンバーとして
リトアニア国民投票も現地取材

月刊「社会運動」連載中
雑誌「NOU LIFE STYLE」他

Blog: http://shibaken612.blogspot.com
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2013年2月1日 | コメント/トラックバック(0) |

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ブルガリア「原発」国民投票・現地レポート(第7回) by しばけん

ブルガリアの全国民に問いかけられた「新しい原発で原子力利用を発展させますか?」という質問。最終的な投票率はまだ出ていないが1月27日の時点では、投票率は21.8%。そのうち賛成派が61%、反対が39%となった。拘束力を持つ60%(前回総選挙の投票者数)には程遠く及ばなかった。ただ、過半数が賛成し投票率が20%を超えた場合、国会での再審議が必要で、去年3月に政府が中止を決定したベレネ原発建設計画についてもう一度、国会で議論されることが見込まれる。その場合政府は3ヶ月以内に結果を出さなければならない。

投票翌日は、どの新聞も一面には原発国民投票の結果。

投票翌日は、どの新聞も一面には原発国民投票の結果。

ブルガリアの欧州における発展のための市民(GERB)のボリソフ首相は、20%強の投票率に注目。民衆の関心は低く、結論は国会に任されたと判断し、再審議では「ベレネ原発建設計画に反対する」と述べた。そして経済担当大臣のデリャン・ドブレフは「当然、すでに原発のあるコズロデュイに7つ目の原子炉を作るつもりだ。」と答えた。

一方、野党の社会党(BSP)は投票率よりも、過半数の賛成意見に焦点を当てて「負けたのは首相」と強調。党首のセルガイ・シュタニエフは「この結果を歓迎する。そして賛成に投票した人にも、反対に投票した人にも感謝したい。ブルガリア人は積極的な選択をした。これで未来の子供達は技術を身につけて働くことができるだろう。この国民投票の成功は、新しい市民社会の幕開けである。」ついで「この低い投票率についてどう思いますか」と聞かれると「今の首相のボイコも前にソフィアの市長になる時、100万人の有権者に対して、20万人の投票であった。そしてGERBの議員120人より、国民投票に投票した150万人の方が多い。(だから議員の決定ではなく、国民投票の結果を尊重するべき)」と答えた。

テレビでも国民投票について取り上げられている。

テレビでも国民投票について取り上げられている。

原発反対派はこの結果を悔やんでばかりではない。「5年前、ブルガリアの反原発はたった10%であったが、少しずつ反対派が増え、今回は39%にまで達している。原発推進40年の洗脳が少しずつ解け始めている。」と希望を失っていない。

地域間の差は顕著だ。都市部ほど原発賛成の人が少ない。首都ソフィアではなんと賛成が49.8%で過半数を割っている。他の都市部でも賛成が57%で平均より低い。一方、小さな町や村では67.7%が賛成していてベレネのあるプレヴェン州はさらに高く77.5%にものぼっている。

さらに、年齢別で見てみると、18歳から30歳は賛成が53.6%。31歳から50歳までが51.5%。51歳以上は66.2%となっている。51歳以上が他の世代より10ポイント以上高いのは、ソ連時代からの社会党(BSP)支持者が多く、伝統的に原子力推進政策が進められてきた世代のためという見方もある。

では投票に行かなかった大多数の約8割の人が何を考えていたのか。一番の理由は「どっちに投票しても原発政策は進められるから。」上記のような与野党の攻防は今に始まったわけではなく、ブルガリア人はこのような政争に辟易しているのだ。また質問があいまいなので、国民投票の結果を政治家の解釈によって都合よく使われてしまうのを恐れたという人も多い。

最終回「無効?不成立?リトアニア国民投票との比較」


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2013年1月29日 | コメント/トラックバック(0) |

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ブルガリア「原発」国民投票・現地レポート(第6回) by しばけん

普通のレストランのガラス窓に貼られる投票場所

普通のレストランのガラス窓に貼られる投票場所

2013年1月27日。首都ソフィアの天気は曇り時々晴れ。昨日降った雪で少し滑りやすいことを除けば、寒すぎることもなく、投票日和である。投票時間は朝の6時から夜の19時まで。町の掲示板や、インターネットで自分の投票する場所をチェックして投票に出向く。投票所は小学校が主だが、大学の施設なども使われていた。投票所の入口には自分の投票する部屋が張り出されている。この番地の人は理科室、あの番地の人は社会科室…などといった具合だ。足が悪い人の投票する部屋が3階で、小学校にはエレベーターがないなんてこともあり、苦労して階段を登っている人もいた。もっとも車椅子マークの部屋も入り口から近いところにあったので、事前に申請すれば、その部屋で投票できるのだろう。

投票所になっているソフィアの小学校

投票所になっているソフィアの小学校

各部屋の中には、4人くらいの管理者がいる。投票者は部屋に入ってまず、管理者に身分証明書を見せ、選挙人名簿に載っているのを確認してもらい、投票用紙と投票用紙をいれる封筒を受け取る。それらを持って部屋の隅にある薄くて白い布で仕切られた個室に入り、その中で投票用紙に記入して、封筒に入れる。そして封筒ごと、透明な投票箱の中にいれる。投票したら最後に選挙人名簿にサインをしてすべて終了だ。日本のように箱を不透明にすれば、封筒に入れたり、出したりする手間が省けるはずだが、投票する前から投票箱に票が入っているということなど、不正を防ぐためだろう。

投票用紙のサンプル 「新しい原発で原子力利用を発展させますか?」

投票用紙のサンプル
「新しい原発で原子力利用を発展させますか?」

18時時点の投票率は20.3%。出口調査では6割が賛成。反対は4割だった。
そして19時きっかりに投票は締め切られ、すぐに開票作業が開始された。

最終的な投票人数は140万人。投票率にして21.8%。有効投票のうち61%が新規原発の建設に賛成、反対が39%。つまり国民投票で賛成派が過半数を占めるということが明らかになった。

投票の様子

投票の様子

本来であれば国民投票の結果を受けて「新規原発建設」という方向に政府は舵を取るべきだ。しかし拘束力を持つための434万人には程遠い140万人という数字に終わった。ブルガリア政府は新規原発の建設に関して「20%超の投票率で過半数を超える賛成意見として国会の議論にあげる」ということに留らせる。投票率の低さにより、国民投票を経てもなお、結局の方向性は国会に預けられる形になった。そしてこの投票率の低さから、各政党、個人が自分の都合の良いように解釈していく。

次回は「国民投票の結果をどう解釈するか」


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2013年1月28日 | コメント/トラックバック(0) |

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ブルガリア「原発」国民投票・現地レポート(第5回) by しばけん

前回レポートしたデモと集会をオーガナイズしたのは、ボリスラフ・サンドフさん。後日時間を取って頂いて、インタビューをさせて頂いた。声をかけた時は存じ上げてなかったのだが、ブルガリアGreens(日本でいう緑の党)の共同議長の方だった。投票の4日前で、テレビやラジオの出演、首相との会談、イベントや討論会の打ち合わせなどを抱えており大変忙しそうであった中で実現した。

2つの携帯とマックブックを同時に使いこなす 多忙を極めるボリスラフさん

2つの携帯とマックブックを同時に使いこなす
多忙を極めるボリスラフさん

彼曰く、もう何度も前回のようなデモ(原発のことではなく環境破壊を止めるデモ)をやっていて、始めは800人程だったが 最終的には5000人くらいになって街の中央の橋を人で閉鎖したりして、首相の決定にも影響を与えている。また別のデモでは10000人を超えるものもあった。

「フクシマの事故は皆さん知っていますか?」と聞くと、「フクシマのことは一斉に報道されたが、今はもうフクシマの影響は忘れてしまっている人も多い。そして、もうすぐ二年が経とうとしているが、今のフクシマの現状を知る由もない。チェルノブイリやスリーマイルのように風化していってしまう。それに対して、推進派は問題点を棚にあげて、原発は安い、安全、生き残る道だ。と言い続けている。」

次に国民投票についてどう思うか聞いてみると「もちろんやるべき」と答えた。そこで僕が「情報がきちんと行き渡ってないから、やらない方がいいんじゃないですか?」とかまをかけると「今、私たちが決めなければならない。政治家に決めさせてはいけない。決定した後、政治家はいなくなってしまうけれど、原子力のゴミは後世にも残るし、ブルガリア人は住み続けるし、子どもの達の未来もある。だから今、私たちが決めるべきだ」と力強く答えた。

しかし実際の投票率はかなり低くなりそうだ。23日に発表された統計によると、27%~37%。国民投票が法的拘束力を持つのは、2009年に行われた総選挙の投票率である60%を超える必要があるので、それには程遠い数字だ。

ではどうしてこんなにも低い投票率になりそうなのだろうか。その一番の理由は投票の結果が、政府の決定に影響を与えないからだという。「新しい原発でブルガリアの原子力発電を発展させますか?」という設問。与党のGERBはNoが多くても既にある「新しくない」コズロデュイ原発を延長して使う計画を進めようとしている。そしてYesも同様で、さらに「新しい」原子炉7号機8号機を作るという計画もある。つまり、どっちにしてもGERBは原発を使い続けることになる。そして、野党のBSPが国民投票で復活させようとした「ベレネ原発」が焦点になっていない。さらに今まで通りに原発が使われるので「原発の是非」も焦点になりづらくなってしまっている。

もともと消極的な人が投票にいかないという状況に加えて、このような状態で行われる国民投票に「金の無駄」「一部の政党のための国民投票」「設問を変えたのがいけない」などという理由で政治や原発に積極的な人までも投票をボイコットする。クネヴァ元大統領候補の率いる政党「市民のブルガリア」も国民投票はボイコットするように呼びかけている。それらが投票率27%~37%という調査結果に表れている。

結果の扱われ方、設問、政党の利益などの問題点は確かにあるかもしれないが、それでもなお、「新規原発に賛成か反対か」国民一人ひとりが主権者の意思を直接示すことができるのが国民投票である。結果が出た後にどう政治家が判断するか。それを見極めて、次の選挙にいかせば良いではないか。もともと国民投票に消極的な人はまだしも、積極的な人までが投票をボイコットしては、政治家は動かせない。投票しないということは、政治家への無言の服従にしかならない。しかしブルガリアはこの世論調査のあと、投票率が上がるための何の決定打もないまま、投票日を迎える。


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ブルガリア「原発」国民投票・現地レポート(第4回) by しばけん

ブルガリアは既に原発を持っている。ブルガリアの北部、ルーマニアとの国境であるドナウ川沿いのコズロデュイに計6炉の原発を所持している。1号炉は1974年から稼働開始、その後も次々と建設し1991年には全6炉が完成し、最大376万kwを発電していた。老朽化のため2002年には1.2号炉を停止、2007年にはEU加盟の条件として3.4号炉を停止させたが、5.6号炉は現在も稼働中で、100万kwずつ。合計200万kw(ブルガリアの総電力の3割)を供給している。5.6号機の稼働は2017年、2019年までの予定であった。

マクドナルドの「M」のマークに放射能のマーク

マクドナルドの「M」のマークに放射能のマーク

去年の春、ベレネ原発建設計画中止を決めたあと、GERB政権はコズロデュイ原発5.6号機運用期間延長の準備調査を開始した。それぞれ2017年、2019年までとされている現行の運用期間を、2037年まで延長するもので、改修プロジェクトの費用は2.5億ユーロ程度が見込まれている。

一方で原発建設計画が中止されたベレネの人たちの反応はどうか。ベレネ市長のペーター・ドゥレフは「大多数の住民が、国民投票の結果によって、ベレネ原発計画の再開を望んでいる。新しい原発はインフラ整備の一つであり、EUの許可もおりている。これはベレネだけの発展ではなく、プレヴェン地域、ブルガリア北部、しいてはブルガリア中の発展につながる。求人も増え、経済的発展も自慢できるようになるだろう」と発言した。

ベリコ・タルノボ主教は多くの市庁舎や、地方の寺院で原発計画の復活させようと願う人を組織して、国民投票で賛成多数の結果を残せるように、会議やコンサートをやるつもりだと言う。

原発反対派はどうか。首都ソフィアを毎日歩き回っているのだが、全くポスターやチラシなどをみつけることができない。ただ、唯一見つけられたのは、マクドナルドの「M」のマークに放射能マークがついていたくらいであった。

ただ原発には反対というブルガリア人女性に話を聞いていると「そういえば今日、原発国民投票のことじゃないけど、デモがあるのよ。あと30分後に始まるんだけど行ってみる?」と言われて場所を教えてもらうなり、出発地点まで直行した。

近づくにつれて何やら騒がしい。ラッパや、フエの音が鳴り止まない。集合場所は交差点なのだが、出発直前ということもあり、すごい人だかりだ。しかも大通りなので、その横を路面電車が通り抜けていく。パトカーの青いランプも、ブルガリアの国旗も、プラカードもピエロみたいに変装している人もいて、見た目にもとても騒がしい。

大通りをねり歩く「Save Green」の人達のデモ

大通りをねり歩く「Save Green」の人達のデモ

詳しく聞かないで、出てきてしまったのだけれど、このデモは海や山や森など、自然を破壊する開発に反対する人たちのデモだった。ここにいる人たちは、ほぼ全員原発にも反対しているようだ。僕が聞いた中でも、一人だけ「原発は難しい」と言うおじさんがいたが、その人以外は、みんな反対の人達だった。

しかし、なぜ国民投票が近いのに、しかも原発反対の人たちがこんなに多いのに、原発反対のデモをやらないのかとても不思議だ。「なんでソフィアに原発反対のポスターとかチラシがないのですか?」と聞くと「それはお金がないからよ」と言っていた。別に禁止されているわけではないようだ。それにしても若い人もたくさん参加していた。そして、おじちゃん、おばちゃんも。子ども連れの人も何人かいた。何人くらいいたんだろうか。3000人くらいであったのではないかと思う。

デモ後は広場に集まって「マフィア!マフィア!」と国会に向かってコールしていた。山や海を売るなと。最後にこのデモをオーガナイズしていた緑の党の議長に「ちょっと今度ゆっくりお話を…」と伺ったら快く引き受けてくださった。

次回は「緑の党議長のインタビュー」


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ブルガリア「原発」国民投票・現地レポート(第3回) by しばけん

「首相、突然YesからNoへ。」

大学の隣の大きな駅で配られていた週間新聞。「AHOHC」

大学の隣の大きな駅で配られていた週間新聞。「AHOHC」

国民投票は日本ではまだ行われたことがない。しかし世界では既に1100件以上も行われており、「国民の大事なことを決めるのは、国民投票で」が常識になっている。

ブルガリアでも1922年、1946年、1971年にそれぞれ、君主制から共和制に移行について、国家犯罪について、憲法についての国民投票が行われている。しかし、1989年の共産主義政権崩壊以来は一度も国民投票が行われたことがなかったが、今回、民主化して以来、初めての国民投票が行われることになる。

昨年11月に実施されたリトアニアでの「原発」国民投票は、総選挙と一緒に行われたため、政党は国民投票ではなく選挙のことに力を注ぐことになった。国民は原発に加えて、どの政党を選ぶかについても、考えなければならなかった。しかし今回のブルガリアの国民投票は単独で行われるので、選挙と同時に行われるよりも原発に焦点が当たりやすい。

今回成立したブルガリアの国民投票法はどのようなものだろうか。
基本的に、普段の選挙と同じように行われると報じられている。大統領が法令を発行した時点で、ブルガリアで市民権を持っていて、住所があり、拘留などを受けていない18歳以上のすべての人に投票権が与えられる。また在外ブルガリア人にも投票権が認められているが、投票できる場所は、大使館か総領事館のみである。

中には原発国民投票の特集。 賛成意見と反対意見が並べられている。

中には原発国民投票の特集。
賛成意見と反対意見が並べられている。

有権者は白い投票用紙に書かれた「新しい原発で原子力利用を発展させますか?」という問いに「はい」か「いいえ」を選んで、青いペンで記入することになる。

また今回の国民投票が法的な拘束力を持つのは、最低でも前回の2009年に行われた総選挙と同じ人数の投票が必要である。つまり4345250人(約60%)以上の投票が必要であり、そのうちどちらか一票でも多いという結果が出て有効になる。

ブルガリア国民は原発はコスト削減になる、または雇用を生み出すと思っているようで、原発に賛成派が多数を占める。ブルガリアの失業率は11.3%で、仕事を求める若者の海外流出も激しい。これはブルガリアの直面している大きな問題の一つだ。世論調査国家センターによると(1月6日現在)回答者の62.5パーセントが賛成。その一方で反対は37.5パーセントだった。

原発賛成派の圧倒的優勢かと思われたが、しかし投票の2週間前の1月12日になって、首相のボイコ・ボリソフが突然「国民投票で『No』とGERB党員や支持者に呼びかける」とTV7という番組で訴えたのである。これはGERB党員などを狼狽させた。僕もかなり驚いてこのことについて、ブルガリア市民に意見を求めると、意外にも彼らは冷静であった。なぜなら、ボイコ首相は意見をよく変えるので最後までわからないということだそうだ。しかし、この首相の「No」発言によって「No」と投票する人が増えるかもしれないと言う人もいた。

「新しい原発で原子力利用を発展させますか?」
投票日は1月27日。即日開票される。

次回はブルガリアの現在唯一の原発「コズロデュイ原発」について。

参考
東京新聞
Sofia News Agency 他


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ブルガリア「原発」国民投票・現地レポート(第2回) by しばけん

「どのように原発国民投票が行われることになったのか?」

1月19日の新聞「キャピタル(首都)」の一面「彼らの国民投票」 彼らとは政党のことである。

1月19日の新聞「キャピタル(首都)」の一面「彼らの国民投票」
彼らとは政党のことである。

国民投票は国民が大事なことを決める手段であるが、それと同時に今回のブルガリアの国民投票は政党間の政権争いに使われているのではないかと、ブルガリアの政治評論家は言う。それはどういうことなのだろうか。

ブルガリアの国会議員は240人で任期は4年の一院制である。2009年に行われた選挙で政権与党となった「ブルガリアの欧州における発展のための市民(GERB)」が117議席を占めている。前政権で現最大野党の「ブルガリアのための連合(BSP他)」40議席。「権利と自由のための運動(MRF)」35議席と続く。ブルガリアにも「緑の党」があり2005年には連立与党となったが、現在は議席を持っていない。

さて前回のレポートで少し触れたが、前政権で現野党のBSPは、ベレネでの新規原子力発電所政策を、ロシアの協力を得て推進してきた。しかし、去年3月に現政権与党のGERBの首相ボイコボリソフは、「費用がかかりすぎる」「法的な不備がある」としてベレネ原発の中止を決めた。GERBは現在あるコズロデュイ原発の計画を進めたいのだ。しかし、前政権のBSPは「ベレネ原発計画中止」を撤回させるために、国民投票を行うための請願署名を集め始めた。50万人(人口の6.7%)の署名が集まれば、議会での承認を経て、国民投票成立となる。

今回の野党BSPの国民投票を求める署名は、50万人を大きく上回り最終的には77万人(人口の10.3%)分が集まり、与党GERBもその請願を受け、議会で賛成多数で可決した。また、建設計画に携わった原発輸出企業アトムストロイエクスポート(ロシアの国有会社ロスアトムの傘下)がベレネ原発建設の中止を受けて10億ユーロ(約1000億円)の損害賠償を求めて法的措置に訴える方針を示したことも、GERBが請願を受けて、原発推進に回ったきっかけになっている。

与党GERBは、総選挙と同時に国民投票をやりたいと思っていたようだ。理由は2つ。一つは総選挙と同時に行うことによる予算の削減。もう一つは総選挙前に、原発の道筋が立ってしまうのを避けたいという理由だ。しかし、野党BSPが早期実現を促し、こうして、総選挙と同時ではなく1月27日に単独で国民投票が行われることが、去年の10月24日に決まったのだ。ちなみに4年に1度の総選挙は今年の7月に行われる。

野党BSPはベレネ原発の再検討を目指し、国民投票の設問を「ベレネ原発で原子力発電を発展させますか」と提案したが、与党GERBは「新しい原発で原子力利用を発展させますか」とベレネ原発に限らない形で国民に信を問うことにし、野党BSPを牽制した。しかし、どちらの党も原発には意欲的だ。与党GERBも原発の利用を継続しようとしている。2011年には東芝子会社の米原子力大手ウェスチングハウス・エレクトリックと協力を約束するなど米国への接近を図っている。昨年3月のベレネ原発中止決定は「前政権の計画は認められない」という意味にすぎなかったようだ。

「新しい原発で原子力利用を発展させますか?」
投票日は1月27日。即日開票される。

次回は「首相、突然YesからNoへ。」

参考
東京新聞
外務省HP
Sofia News Agency 他


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2013年1月23日 | コメント/トラックバック(0) |

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ブルガリア「原発」国民投票・現地レポート(第1回) by しばけん

セルビアとの国境をバスで通過。ブルガリアへ。

ブルガリアへ。セルビアとの国境をバスで通過。

ブルガリアと聞いて、皆さんは何を想像するだろうか。
ヨーグルトを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。力士の琴欧洲もブルガリア出身として知られている。僕がブルガリアについて知っているのはそのくらいで、特段興味があったわけではない。しかし、この度「原発国民投票」が行われるということで、ドイツからバスで27時間、ブルガリアに乗り込んだわけである。

ここでブルガリアについて簡単に紹介したい。
ブルガリアは北にルーマニア、東にセルビア、南にギリシャ、トルコ、西は黒海に囲まれた、日本の3分の1ほどの面積を持つ国である。首都はブルガリア西部にあるソフィアで僕はそこに滞在している。人口は750万人ほど。その約8割がブルガリア人、移民は20%で、その半数をトルコ人が占める。2007年にルーマニアと共にEUに加盟したが、ヨーロッパ最貧国と言われている。そのため、物価はアジアやアフリカほどではないが、日本やヨーロッパ諸国に比べると総じて安い。僕が今、この原稿を書いているカフェのコーヒーは一杯2レヴァ、120円程である。

ヴィトーシャ大通りから聖ネデリャ教会を臨む。首都ソフィア。

首都ソフィア。 ヴィトーシャ大通りから聖ネデリャ教会を臨む。

そして今、話題になっているのが、ベレネでの原発計画だ。コズロデュイの東部へ約130キロ。ドナウ川の下流にある人口9000人程の町に、1981年に原発建設計画が持ち上がり、1984年から建設が開始されたが、1991年に資金不足と反対運動の活発化で中断。2006年には前政権与党で現野党の「ブルガリアのための連合(BSP他)」主導で再開するが、2009年に大口の投資元だったドイツの大手エネルギー会社RWEが撤退し、去年3月に現政権与党の「ブルガリアの欧州における発展のための市民(GERB)」の首相ボイコ・ボリソフは「費用がかかりすぎる」「法的な不備がある」としてベレネ原発の中止を決めた。ロシアと話を進めてきた前政権のBSPは「ベレネ原発計画中止」に撤回させるために国民投票に持ち込んだのである。

「新しい原発で原子力利用を発展させますか?」
投票日は1月27日。即日開票される。

次回は「どのように原発国民投票が行われることになったのか?」

参考
東京新聞
外務省HP 他



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