5月21日、スイスで原発国民投票が実施され、段階的脱原発の法案が可決
2017年5月21日(日)、スイスで新エネルギー法の是非を問う国民投票が行われ、賛成58.2%、反対41.8%で同法が可決されました。投票率は、42.3%でした。
新エネルギー法は「エネルギー戦略2050」をベースとしたもので、2050年までに再生可能エネルギーの促進と省エネを進め、脱原発を実現することが掲げられています。同法案は昨年10月に連邦議会で可決されたものの、5万筆以上の署名を提出すると議会で可決された法案を国民投票にかけることができるという制度に基づき、保守派の国民党を中心に反対派が署名を集め、今回の国民投票が実施されることになりました。
スイスでは、福島第一原発の事故をひとつのきっかけにエネルギー政策の転換が大きな政治的な課題となっていました。昨年の11月には、緑の党などが主導して脱原発をより促進する立場から、「エネルギー戦略2050」よりも脱原発の速度を早めることの是非を問う国民投票が実施され、その提案は否決されました。今回は逆に、保守派の国民党などが脱原発を否定して原発を維持していく立場から、「エネルギー戦略2050」を具現化する新エネルギー法の是非を問い、結果的に法案が国民に信任されることになりました。原発反対、原発維持の双方が主導して実現した二つの国民投票を経て、再生可能エネルギーと省エネを進めながら段階的に脱原発を実現していくという政府の方針が国民によって認められたといえるでしょう。
今回の国民投票の詳細については、swissinfo.ch(スイス公共放送協会(SRG SSR)国際部)の特集ページ「2017年5月21日の国民投票」が詳しく報じています。結果の分析や法案の説明はもちろん、賛否両派へのインタビューも掲載されています。ぜひこちらもご覧ください。
2017年5月22日 | コメント/トラックバック(0) |
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4/23:(関西)連続講座「原発からみる民主主義」第1回・スウェーデン
★連続講座★
「原発からみる民主主義」
〜チェルノブイリと福島の事故をうけたヨーロッパ各国の選択〜
チェルノブイリや福島の事故をうけて、世界各国はどのような選択をしているのだろうか。
私たちがいますべきこととは、なんだろう?
この連続企画では、書籍『脱原発の比較政治学』執筆者の先生方をお迎えし、ヨーロッパ各国の事例について講演していただきます。
第1回は「スウェーデン」
米・スリーマイルの事故を受け1980年に世界で初めて2010年の原発全廃を国民投票で決めたスウェーデン。しかし、福島第一原発事故後、現在は「脱・脱原発」へと方向転換したといわれています。環境立国でも知られる一方で、エネルギー資源にも乏しい点は日本と同じ。原発をめぐる世論や政策転換の背景には何があったのでしょうか。
講師:渡辺博明(わたなべひろあき)
1967年生まれ。龍谷大学法学部教授(政治学)。著書に「スウェーデンの福祉制度改革と政治戦略」「ヨーロッパのデモクラシー」「紛争と和解の政治学」、ほか。
日時 : 2017/4/23(日)
13:30 open / 14〜16 講演と質疑応答
場所:クレオ大阪西 研修室
http://www.creo-osaka.or.jp/west/access.html
(JR環状線/阪神なんば線 西九条駅徒歩5分)
料金:500円(資料代)
申し込み方法:以下のいずれか
Facebookイベントページへの参加表明
Email:mintkansai@gmail.com
電話:090-4273-4591(大音/おおと)
☆今後の予定
第2回 5月28日 「ドイツ」(講師:小野さん)
第3回 6月25日 「イタリア」(講師:高橋さん)
第4回 7月23日 「フランス」(講師:畑山さん)
2017年3月27日 | コメント/トラックバック(1) |
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レポート:スイスで「原発」国民投票実施、脱原発計画を早める提案が否決(第一回)
2016年11月27日、スイスで実施された「原発」国民投票について、二回に分けてレポートします。第一回では、スイスの電力事情や、今回の国民投票に至る経緯、是非が問われた提案の詳細について紹介します。(文責、当会運営委員長・鹿野)
賛成45.8%、反対54.2%で否決
2016年11月27日、スイスで原発の早期閉鎖の是非をテーマにした国民投票が実施されました。この国民投票では、既存の原発の運転期間を45年に限定することで2029年までに計画的に脱原発を実現することの是非が問われました。
投票の結果は、賛成45.8%、反対54.2%でした。投票者の過半数の賛成を得ることができず、また州の過半数の賛成も得ることもできず、国民投票で問われた発議は否決されました。
投票率は45パーセントで、スイスで行われた近年の国民投票と比べて平均的な数字でした。福島第一原発の事故後、原発をテーマに国民投票を実施したのは、イタリア、リトアニア、ブルガリアに続いて、4か国目になります。
スイスの電力事情 – 水力と原子力が2大電源
スイスの電力事情の一番の特徴は、水力発電が盛んなことです。山々から北海、アドリア海、地中海、黒海といった海へと流れる川を利用して作られた水力発電所によって、2015年の実績では59.9%もの電力が担われました。原子力は、水力発電に次ぐ電力源です。現在国内に5基の原子力発電所が存在していて、2015年の実績では電力供給の33.5%が原子力発電所によるものでした。水力と原子力で90%以上の電力が担われていることになり、火力発電所や再生可能エネルギーが残りの供給を担っています。
5基ある原子力発電所の概要は次のとおりです。5基のうち4基は運転期間40年を超えていて、福島第一原発の事故前から原発の老朽化は大きな問題の一つでした。
名前 | 稼働開始 | 出力 | 型 |
---|---|---|---|
ベツナウ第一 | 1969年 | 365メガワット | 加圧水型 |
ベツナウ第二 | 1971年 | 365メガワット | 加圧水型 |
ミューレベルク | 1972年 | 373メガワット | 沸騰水型 |
ゲスゲン | 1979年 | 985メガワット | 沸騰水型 |
ライプシュタット | 1984年 | 1190メガワット | 沸騰水型 |
福島第一原発事故後の脱原発潮流と国民投票に至る経緯
福島第一原発の事故は、スイス国民にも衝撃を与えました。2011年、福島の事故の後、スイス政府は原発の運転期間を原則50年にすると掲げ、2034年に脱原発を実現することを示唆しました。
これに対して緑の党は、運転期間50年は長すぎると考え、国民投票の準備を始めます。今回の国民発議の提案は2011年5月に作成され、同年11月に連邦内閣事務局に提出されました。緑の党の下院議員を務めるロベール・クラメール氏は、福島の事故が今回の「イニシアティブ(国民発議)を立ち上げるきっかけになったことは確か」と話しています。その後2012年11月、緑の党を中心にグリーンピースなどの環境団体や労働組合が108,000筆を超える署名を集めて提出したことによって、今回の国民投票が実現される運びとなりました。
その後、政府が提案し、今年の9月に修正を経て議会で承認された「エネルギー戦略2050」計画では、新規原発の建設禁止に加えて、再生可能エネルギーの発電量の増加に合わせて脱原発を実現することが明文化されました。しかし、脱原発の工程・期限が明確にされることはありませんでした。
スイスの国民投票制度
スイスには幾つもの国民投票のタイプがありますが、その中でもよく活用されるのは憲法改正を提案する国民投票と制定された法律の是非を問う国民投票です。
スイス国民が憲法改正の国民投票を提起するには、18ヶ月以内に10万筆以上の署名を集める必要があります。これは、スイスの有権者数の2%弱にあたります。また、国民投票実施の結果、憲法改正が承認されるには「二重の多数」が求められます。具体的には、国全体で投票者の過半数の賛成を得ることに加えて、州ごとに投票結果を集計して過半数の州で賛成が多数になることが必要になります。
一方、新法の是非を問う国民投票は、連邦議会が可決した法律に対して国民が異議を唱えるもので、その公布から100日以内に5万筆以上の署名を集めると国民投票が実施されることになります。国民投票の結果として否決が承認されるために「二重の多数」は不要で、国全体で投票者の過半数の賛成を得れば、その異議は認められて新法が否決されます。署名数、結果の承認要件ともに、憲法改正の場合よりも必要な条件は緩やかになっています。
なお、スイスでは憲法改正は珍しいことではありません。憲法が最初に制定された1848年以降、1874年と1999年に全面改定が実施されています。1874年と1999年の全面改定の間には、140回を超す部分改訂が行われており、その後もコンスタントに改正が行われています。スイスで憲法改正が多い理由の一つは、憲法の特徴に求められます。定めていることの範囲が普通の国よりも幅広く、法律で規定してもいいような個別具体的な事項も憲法に記される場合があるため、その改正が必要になることも多くなります。また、国民が署名を集めることで憲法改正の是非を問う国民投票を実現できることも、改正が多い理由の一つと考えられています。
今回の国民投票提案の詳細
今回の国民投票は、憲法改正の国民投票に分類されるものです。スイス連邦憲法の第90条は「原子力エネルギー」についてのもので、「連邦政府は、原子力エネルギー分野の立法に責任を負う」と書かれています。
国民投票にかけられた提案は、この第90条の文言を「原子力発電所を操業し、電気や熱を生産することを禁止する」と書き換えて、原発禁止を憲法に明記することを求めました。同時に、第90条に2項目を追加し、関連する立法により省エネルギー、効率的なエネルギーの使用および再生可能エネルギーの生産に焦点が当てられるべきことを記しています。また第90条の経過規定も変更し、ベツナウ第一原発を「第90条の採択から1年後」、その他の原発を「発電開始から45年後」に操業中止とすること、同時に「原子力の安全を確保するために、これより早く廃止することは認められる」と記述することを提案しました。
最も新しい原発であるライプシュタット原発は1984年に操業を開始しているため、「発電開始から45年後」は2029年になります。つまりこの国民発議を承認することは、原発ゼロの期限を2029年と明確に記し、「エネルギー戦略2050」よりもペースを早め、計画定期に脱原発を進めることを意味していました。
※次回は、賛成論と反対論の中から主な意見を紹介するとともに、今回の結果に対するさまざまな評価や、今後の展望などを記します。
2016年12月12日 | コメント/トラックバック(0) |
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スコットランド独立住民投票 現地レポート第3回
日本では、にわかにスコットランドブームが巻き起こっていると聞いた。住民投票のことに加え、NHKの朝の連続テレビ小説「マッサン」で、スコットランドに渡って、ウイスキー作りを学んできた竹鶴政孝さんとスコットランド人の奥さんのリタさんのニッカウヰスキー創業に至る話が始まったのだとか。一方スコットランドでは、日本の御嶽山の噴火と香港の通常選挙を求めるデモが連日報道されている。
さて、スコットランドに到着してからこつこつと取り続けたアンケートがついに100人を越えたので、考察とともにここに公表したい。
*スコットランド「独立」住民投票アンケート
期間2014年9月15日~9月23日サンプル数 104人
(エディンバラ64人 グラスゴウ40人)
若者を中心に対面調査。10代から70代の男女
協力:翻訳 金子誠人 アンケート補助 Elin Johansson
Q1. 今回の「独立」について住民投票に賛成か反対ですか?(独立に賛成か反対かではありません)
賛成 87人(83.7%)
□「独立」のように大切なことは住民投票で決めるべき。83人(賛成と答えた人のうち95%)
□ 政府の決定と主権者・国民の多数意思がねじれていると考えるから。28人(32%)
□ その他7人(8%)
・人びとの問題は人びとで決めるべき。
・全てのスコットランド人も投票できるようにするべき(国外に住んでいる人も含めて)…など
反対 17人(16.3%)
□これはUK全体のことなのでUKのreferendum(国民投票/住民投票)で決めるべき。9人(反対と答えた人のうち53%)
□民衆は正しい選択をすることができないので議会に任せるべき。3人(18%)
□正しい情報がきちんと行き渡ってから実施すべき。8人(47%)
□その他 1人(6%)
考察:実に83.7%の人が、住民投票に賛成している。この数値は今まで調査をした、リトアニア、ブルガリア、スイスの中で最も受け入れられているReferendum(国民投票/住民投票)だと言える。「UKの住民投票にかけるべき」という反対理由や「正しい情報がきちんと行き渡ってから実施すべき」という理由も今回の住民投票には反対の立場だが、住民投票自体には反対していない。もっと状況を整えることが重要だという指摘だと考えられる。
Q2. 16歳以上が投票権を持つということについてどう思いますか?
賛成 73人(70.2%)
□将来にわたって影響が大きい若い世代も投票をさせるべき。54人(74%)
□十分に判断力を持っているので投票させるべき。38人(52%)
□その他9人(12%)
・結婚すること、軍隊に入ることなど仕事を選ぶことができるのだから投票権も持つべき。
・若い時から政治に興味を持つ人が増えるから。
・年齢は問題ではない。きちんと複合的で複雑な政治的な情報を与えることが大切。若者の意見を無視していい理由はない。
反対 31人 (29.8%)
□投票するには若すぎる。28人(90%)
□その他3人(10%)
・親や、友達の影響が大きすぎる。
考察:今回、16歳17歳が初めて投票をする機会を得た。(通常選挙の投票権は18歳以上から)そのおかげだろうか、出会った16歳17歳の学生が皆、独立について考え、学校でも議論をしているという。更に日本の中学生にあたる10代前半の世代にも関心が広がっていて、学校の授業でも独立について頻繁に取り上げられているそうだ。投票年齢を引き下げるということは、それだけ関心を持つ人を増やし、世代間議論を深めるきっかけになると考えられる。
Q3. いつから「独立」というテーマに興味を持ち始めましたか?
□2014年~ 投票日が近づいてきてから26人(25%)
□2013年~ 盛り上がってきてから26人(25%)
□2012年~ 住民投票をすることになってから20人(20%)
□2011年~ 前回のスコットランド選挙辺りから5人(5%)
□2000年~ スコットランド議会ができてから10人(10%)
□1990年~ 3人(3%)
□それ以前 11人(11%)
□現在も興味がない 2人(2%)
考察:住民投票をきっかけに今まであまり興味のなかった人も、70%を越える人が「独立」に興味を持ち始めたと答えている。若い人を中心に話を聞いているということを加味しなければならないが、それでもこの結果は興味深い。例えば、日本でも「原発」をテーマにした国民投票を行う場合、今は関心がない人でも決定権を与えられることによって、もしくはメディアなどで取り上げられたり、友達や家族などで話されるようになってくると、自然に関心を持ち始めるということが十分考えられる。
Q4.誰と「独立」に関しての話をしますか?
□学校の友達68人(65%)□地元の友達61人(59%)□親58人(56%)□親戚48人(46%)□兄弟41人(39%)□bar や公園などで知らない人など37人(36%)□インターネット上24人(23%)□子ども13人(13%)
考察:学校の友達や地元の友達、または親と話をする人が半数を超えている。また、知らない人とも36%の人が議論をしていたというは意外にも多かったが、実際にカフェや、道ばたで知らない人同士が議論をしているのを目撃した。インターネット上で話をするという人が23%と、あまり多くないことには少し驚いたが、ツイッターでは #indyref のハッシュタグでかなり活発に情報発信がされていたし、フェイスブックでも同様に多くのグループが作られ独立に関する情報が飛び交っていた。
スコットランドの独立は住民投票によって否決されたが、独立運動を牽引してきた国民党は、住民投票終了後、急激に党員数を増やし、25000人からついにスコットランド人口の1%を大きく越える69000人に達した。そして他にも独立を訴えていた社会党も約1200人から2100人に。また緑の党もスコットランドで1700人だった党員が6000人を越えるまで急成長している。
住民投票から一週間後、エディンバラの緑の党が月に一度の地域ミーティングを開いた。たくさんの来場者が予想されたため会場を変更したのだが、その予想をも上回る200人程の老若男女が集まった。始めに議員が挨拶した後、10人程のグループになってどうして今日のミーティングに参加したのか、緑の党に期待するものは何か、などについて話し合った。そのミーティングで司会をしていた緑の党のセルビーさんに話を聞いた。
「住民投票を通して、緑の党が環境だけでなく、社会福祉や市民参加による民主主義などを進めていこうとしている政党だという魅力が伝わりました。これからも私たちは緑の党のポリシーについて考え続けて、発信することが大切だと考えます。そして、緑の党の目的は独立ではありません。住民投票での独立という道は途絶えてしまいましたが、より良いスコットランドに向かうためにはいろんな道があるのです。そのためには今回の住民投票で反対に投票した人も一緒に巻き込んでいかなければなりません」
今回の独立をかけた住民投票でスコットランドは大きく変わった。「今までより政治について学び、メディアを鵜呑みにせず、議論をするようになった」と話を聞かせてもらう人皆が口を揃えて言う。これからはキャメロン首相の掲げた権限移譲の提言を注視し、次の総選挙に活かすという。このように彼らは議会制民主主義を否定している訳ではないし、直接民主主義も当然のものであると考えている。スコットランドでは国民が政治に参加できるのは選挙だけではないのだ。
日本で「原発の再稼働などについて、国民投票にかけよう」と提案すると、賛成派、反対派の両派から「負けるかもしれないから嫌だ」という声が少なからずあがってくる。しかし国民投票は「自分たちの主張を通すため」に行うものではない。世論が大きく二分されている「原発」など命や倫理、将来に大きな影響を及ぼす重要な問題に関して、国民が直接自分たちの責任で投票を通じて方向性を示すのが国民投票である。そして結果ももちろん大事だが、投票に至るまでに市民一人ひとりが情報を取捨選択し、議論を重ねること、投票によって責任の所在がはっきりするということ、そして負けたら全て終わりではないことはスコットランドの住民投票が物語っている。
それと同時に日本では、若者の低投票率が叫ばれて久しい。もっと早いうちから政治に興味を持つきっかけとして「投票権」を与え、政治について考えて、議論をして投票に行く習慣を作らなければならない。日本でも16歳から仕事を選ぶことができるし、結婚をすることもできる。つまり彼らは既に国を構成する重要な世代で、将来を決定する権利があるのだ。ただでさえ、高齢化が進み、高齢者向けの政策が通りやすい傾向がある。その問題を解決するためには「憲法改正の国民投票についてのみ18歳以上にする」というだけでなく選挙年齢の引き下げが必要なのだと考える。
日本でも海江田万里衆議院議員がスコットランドの住民投票を受けて「今こそ、日本のエネルギー政策、とりわけ原発政策について国民投票が検討される時期ではないかと考えます」と自身のブログに掲載したこともあり、これから国民投票に向けた議論が本格化していくであろう。埼玉県でも「原発」に関する住民投票を求める署名運動が今月中旬から始まる。その時には勝ち負けがどうなるかは、もちろん大切なのだが、それ以上に大事なのが、それまでにどれだけ多くの人を巻き込むことができるのか、結果如何に関わらず両派がより良い未来のために、どのような「原発政策」を作っていけるかである。今こそスコットランドのように「国民投票」や「住民投票」などの直接民主主義を通して「原発問題」を政治家のものから、国民みんなのものにしていくべきなのではないだろうか。
筆者プロフィール
大芝健太郎(27)旅するジャーナリスト
スイス、リトアニア、ブルガリアなど、ドイツを中心にヨーロッパの住民投票・国民投票を現地取材。「原発」国民投票賛同人。
Blog: http://shibaken612.blogspot.com
2014年10月5日 | コメント/トラックバック(0) |
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スコットランド独立住民投票 現地レポート第2回
(スコットランド、大芝健太郎 2014年9月23日)
日本でもスコットランドの様子が大きく取り上げられているそうだが、ご存知の通り独立反対が過半数を超え、スコットランドはイギリスに留まる事が決まった。今回は、その結果を詳しく見て行きたい。
○投票日 2014年9月18日(木) ○設問 ○開票結果 |
投票後の調査をベースにした考察
まず、調査会社「LORDASHCROFT」が実施した投票直後の調査を元に、考察をしてみよう。
○投票理由
賛成に投じた主な理由
「イギリス中央政府への不満」74%。
反対に投じた主な理由
「ポンドが使えるかどうか不確実」57%。
両者に共通の投票理由
「National Health Service(国民保険サービス)」と呼ばれる、収入に関わらず医療が受けられる仕組み。45%
賛成派は「独立しなければ維持する事はできない」
反対派は「独立したら維持できない」と主張していた。
○投票傾向
●「男性は賛成、女性は反対」
男性 賛成47% 反対53%
女性 賛成44% 反対56%
男性に比べて、女性は不確実な未来を選択することには消極的。これは他の独立を求めているカナダのケベック州や、スペインのカタルーニャでも同様の傾向がある。
●「若者は賛成、お年寄りは反対」
年代別賛成率
16,17歳 71%
18-24歳 48%
25-34歳 59%
35-44歳 53%
45-54歳 52%
55-64歳 43%
65歳 27%
若者の賛成理由はイギリス中央政府への不満など、いろいろあるが、とにかく現状の変化を望んでおり、お年寄りはそれを望んでないという結果が明確に現れていると考えられる。この結果を見ると、次の世代でまた今回のような住民投票が起こったら独立が現実化するとも見る事ができるが、若い時は賛成でも年を取るにつれ、独立反対になるのかもしれない。18-24歳で賛成の割合が落ち込んでいるのは「独立した後も仕事がきちんと続けられるのか不安」という理由からだと考えられる。
●「低所得者層は賛成、富裕層は反対」
賛成派の勝利した4つの地域はいずれも低所得者層がスコットランド平均よりも多く、また失業率も高い地域だった。スコットランドではワーキングシェアなどを実施しており、現在の失業率はイギリス4カ国で一番低くなっている。また独立白書によるとイギリスは32のOECD加盟国の内、格差が大きい国で7番目に位置しているので、これを是正していくというのが、独立の公約の一つだった。一方、富裕層は新たな負担が増える事を懸念して反対に投じている。
○次に独立住民投票をやるのはいつ?
5年後 31%
10年後 17%
次の世代 24%
もうしない 19%
わからない 9%
独立賛成派の人だけで見ると、5年後にもまたやりたいという人が45%もいる。まだ、結果に納得できず、バッジなどを付けて自己主張を続けている人もいるが、早期実現は難しいだろう。一方、独立反対派の中では「もう二度とやらない」と答えた人が25%にも上っている。
日本で報じられているのは主に「民族主義の高揚」と「経済的な先行きの不安」ではないだろうか。これは確かに今回の住民投票の一部を表しているが、それだけではない。前回も伝えてきたが、これは独立賛成派による民主主義運動なのだ。今回の住民投票で独立賛成に投票した人のうち、実に74%がその理由に「イギリス中央政府への不満」(Disaffection with Westminster politics)をあげている。前回の投稿でも少し書いたが「スコットランドの民意がイギリス中央政府に反映されていない」と言う問題がある。イギリス議会(庶民院)の定員650人のうち、現在スコットランド選出の議員は59人しかいない。しかもそのうち保守党は1人しかいないのに、イギリス議会では保守党が与党を担っていて、スコットランドの民意と中央政府とのねじれが頻繁に起こってしまっているのだ。
スコットランド在住の人たちの生の声
ここで投票を終えたスコットランド在住の人たちの生の声を紹介したい。
賛成派
Eilidh Mitchell エイリー ミッチェル さん(22)は住民投票が決まってからずっと独立賛成の立場を主張してきた。「イギリス中央議会中心の政策決定にみんな変化を望んでいる。これはスコットランドだけではない、他のウェールズや、北アイルランドにも言えること。中央議会に軽視されている状況をどうにかしたいと思っているが、スコットランド国民は独立反対を選んだ。この国民の選択の結果は認めなければならないが、キャメロン首相達が投票直前に『権限委譲を進める』という公約はきちんと守らせるようにしなければならない」と話す。投票が終わっても独立賛成を示すバッジがバッグに光っていた。 | |
Mike Lavin マイク ラヴィンさん(45)も独立賛成に投じた。「結果はNOを選んだ人の方が多かったことが残念で仕方がない。でもこれがスコットランド人の多数の意見だから認めるしかない。」これからスコットランドは良くなると思いますか?と言う質問には「大幅な権限委譲(Devolution Max)の実現は難しいので、これから先スコットランドが良くなるとは思わないけれど、来年2015年のイギリス議会選挙では変わるかもしれない」 |
反対派
お子さんを連れて公園に来ていたDorota ドロータさん(30)に話を伺った。彼女はポーランド人だが、EU加盟国のスコットランド居住者には投票権がある。「私は独立反対に投票したので、結果を見て安心しました。でも独立に賛成の人も多かったし、投票率も高かったから、この住民投票はイングランドへの影響がとても大きいはず。これからはスコットランドは少しずつ良くなると思う。権限委譲が行われて今より、強い国になると思う」 | |
ベンチに座って二人でお菓子を食べているところに声をかけさせてもらった。 Edward(24)エドワードさんとAshleigh (24) アシュレイさん 「独立反対に投票した。理由はEUにも入れない可能性があるし、イングランドからの交付金がなければスコットランドは財政的にやっていけなくなってしまう。とにかく反対派が多数になって安心している。賛成派の中にはとても怒っている人もいるし、かなり悲しんでいる人もいるけれど、とりあえず20年間はこのような独立の心配はないと思う。権限委譲も一ヶ月くらい様子を見てみないと、まだどうなるかわからない」 |
このように、みんな「権限委譲」のことを気にしている。今は教育、観光、一部の課税権などの権利は既に委譲されているが、軍事、外交、エネルギーなどについては認められていない。「自分たちの国の大切なことでさえ、スコットランドの声はきちんと届くことがなく、イングランド中心のイギリス議会に決められてしまう」。このことが終始一貫して一番のテーマなのだ。そもそも、この住民投票を主導してきたスコットランド国民党は3択をキャメロン首相に提案していた、すなわち「独立」「大幅な権限委譲」「このまま」で住民投票が行われる可能性があったのだ。しかし、キャメロン首相は大幅な権限委譲になることを恐れ「独立」という極端な選択をスコットランド人はしないと高をくくり2択で合意した。しかし、予想以上の独立賛成派の急進に焦ったキャメロン首相は「独立に反対すれば、大幅な権限委譲を約束する」と発言した。それにより、独立をしなくても権限委譲が行われれば十分だという層が「NO」に回ったことも独立反対派の勝因の一つになっている。そのため、この公約が守られるかどうかというのに、みんな敏感なのだ。
今、スコットランド国民の関心は「独立するか、しないか」ではなく「権限委譲がどの程度行われるか」にシフトしている。
筆者プロフィール
大芝健太郎(27)旅するジャーナリスト
スイス、リトアニア、ブルガリアなど、ドイツを中心にヨーロッパの住民投票・国民投票を現地取材。「原発」国民投票賛同人。
Blog: http://shibaken612.blogspot.com
2014年9月23日 | コメント/トラックバック(0) |
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スコットランド独立住民投票 現地レポート第1回
(スコットランド、大芝健太郎 2014年9月17日)
9月18日にスコットランドでイギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)からの独立を問う住民投票が行われる。
スコットランドは1707年よりイギリスの構成国の一つとなった。しかし、1997年の住民投票を受けて翌年に設立されたスコットランド議会では、独立を党是とするスコットランド国民党が議席を増やし、2011年には単独過半数を獲得。2012年には「独立」住民投票をイギリス首相にも認めさせて今回の住民投票が決まった。
ここ一週間の世論調査では賛成派、反対派の支持が大変拮抗しており、どちらが勝つにしてもその差は僅かになることが予想されている。最新の世論調査ではどこのものかによって若干ばらつきがあるが、賛成派が48%、反対派が52%だ。
ここで、両派の主な独立に関する主張を紹介したい。
独立支持派の主な意見
現在スコットランド選出の議員59人のうち保守党は1人しかいないのに、イギリス議会では保守党が与党を担っている。このようなスコットランドの民意と中央政府とのねじれが頻繁に起こってしまっている。
北海油田の利益がスコットランドに直接得られることで、少なくとも今よりは豊かになると主張している。
スコットランド最大の都市グラスゴウから16kmほどしか離れていないところに、イギリス軍の原子力潜水艦などの核兵器が配備されており、住民は不安な日々を送らされている。
スコットランド国民党は、この民族主義的な理由を公の場で発言することはない。しかし、支持者の中には、こういった理由で独立したいと考えている人も少なくない。
独立反対派の主な意見
独立賛成派はポンドを使うと主張しているが、イギリス中央政府は「イギリスから抜けるということは、ポンドからも抜けることだ」と主張している。実際に交渉が始まるのは独立賛成派が住民投票で上回ってからになる。
スコットランドで営業している企業のうち「独立するならばスコットランドから撤退する」という企業もある。そのため、今までと同じレベルの社会保障(年金や国民健康保険)を維持するためには税金の値上げをしなければならないだろうと心配している人もいる。
もし、イギリスから離脱してEUにも入れないとなれば、世界から孤立してしまう可能性を心配している人もいる。
独立しなくても、今まで以上にスコットランドに権限が与えられるなら、わざわざリスクの高い選択をする必要はない。このように少しずつ、権利を手に入れていけばいい。
思い描いていたとおりの住民投票
投票日を二日前に控えて、世論調査でも賛否がかなり拮抗しているのだが、暴力やテロなど、きな臭い事件が起きているという話はほとんど聞かない。それはなぜなのだろうか。
僕は理由は二つあると考えている。まず、一つ目はこの住民投票では両派が自由に活動することができるからだ。弾圧や報道規制などがあれば、抑制された方は暴発するしかない。口を塞がれれば手が出てしまうというのは、ある意味仕方がないかもしれない。しかし今回のキャンペーンでは、互いに活発に意見や情報を出し合うことができている。
そして、二つ目の理由はこの住民投票を推進しているスコットランド国民党が「民主主義」を求めて独立運動を行っているからだ。上記の独立賛成の意見でも紹介したが、スコットランドのイギリス政府への影響力はとても小さいため、民意が反映されないことが多い。民主主義は暴力などでは得ることはできない。
独立賛成派のマシューさんはこう話す。「私たちが求めているのは、分離や排除によって得られる独立ではない。通常18歳からの選挙権を拡大して16歳からにしたりしている。スコットランドはEUに入って移民も受け入れようとしていますが、逆にイギリスはEUから抜け出そうとしています。これはそんな『ウェストミンスター(イギリス議会)からの独立』なのだ。つまりウェストミンスターに支配されたままでいるのか、それとも本当の民主主義を市民が望むのかどうか。私たち独立賛成派は今、巨大な力の前に立ちはだかっている、彼らは圧倒的な資本を持ち、政治を支配し、メディアをコントロールしている。それに対して私たちは自分のコミュニティーを信じて、地域の資源を活かして、豊かな家族も貧しい家族も等しく平等な機会が与えられる社会の実現を目指している。これはスコットランドだけの運動ではない。西欧諸国、いや全世界の欲深い、道徳心のない権力者の支配から、民主主義を取り戻す革命なのだ」
この住民投票によって市民の政治参加意識を高められているということもわかる。スコットランド人女性のエリーさんは「こんなに自分の一票に力を感じたことはない。実は選挙の投票に行ったことは1回もないのだけれど、今回は投票しようと思っている」と話す。
また、公園で声をかけた若い女の子達はなんと14歳だったのだが「学校でも周りの人達と独立をどうするかについて話をしている」のだそうだ。その傾向は誰に聞いても変わらない。また違う人たちに「日本では政治について話すことがあまりないのですが、どうして皆さんは独立や政治について話すんですか?」と聞くと「だって、みんな共通の話題でしょ?」と、事もなげに応えた。
こんなに盛り上がっている住民投票は初めて。
そして、これが僕の思い描いていた住民投票であった。
これまでリトアニア、ブルガリア、ドイツ、スイスなどの住民投票、国民投票の現地取材を続けてきたが、これほどまでに活気のある住民投票はなかった。街中で見られる賛成、反対の意思表示を示すステッカー。賛成派も反対派も(特に賛成派だが)自分の意見を表現することを、どこか誇らしく楽しんでいるように感じる。窓などに飾るポスター。胸に光るバッチ。連日賑わう紙面。週末の公園では両派が机やテントを出してお互いの情報を発信している。そこで議論が生まれたりもする。印象的だったのは賛成派の人たちと、反対派の人たちがすれ違うとき、にこやかにお互いにチラシを交換していたことだ。
日本でもいずれ、「原発」や「憲法」についての国民投票が行われるときが必ず来る。その時にはこのスコットランドの住民投票が国もテーマも違うが、大変参考になるだろう。構図は一緒なのだ。圧倒的な資金力とメディアへの影響力に対抗するには、市民の確かな情報ときちんとした議論、意見の違いなどを排除するのではなく、共に未来を歩むパートナーとして考えていく姿勢が大切なのだと改めて感じた。
投票日はとうとう明日に迫っている。
筆者プロフィール
大芝健太郎(27)旅するジャーナリスト
スイス、リトアニア、ブルガリアなど、ドイツを中心にヨーロッパの住民投票・国民投票を現地取材。「原発」国民投票賛同人。
Blog: http://shibaken612.blogspot.com
2014年9月17日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:ニュース 事務局からのお知らせ 海外情報
住民投票で切り拓いた、ドイツ初・市民電力会社の設立: 第三回 創立者のウルズラさんに聞く
都民投票のスタッフだった大芝健太郎氏が、映画「シェーナウの想い」の舞台となったドイツのシェーナウ市を訪れ、関係者にインタビューを行いました。「住民投票で切り拓いた、ドイツ初・市民電力会社の設立」と題して、これまでに2回レポートを掲載しました。最終回である第3回では、いよいよ「シェーナウ電力」の代表に会い、住民投票の本質について聞きます。
私がシェーナウの街で最初にインタビューしたのは、ヴァルター・カーレさん。ホテル「4匹のライオン」のオーナーであり、料理長だ。このホテルにはコージェネレーション(熱と電気を同時に生み出す機械)が導入されており、映画「シェーナウの想い」の中でも紹介されている。予約もせずにいきなり伺ったのだが、シェーナウを訪れた経緯を話すと、夕食前の忙しい時間にもかかわらず、ヴァルターさんはコージェネの機器があるボイラー室まで連れて行ってくれて、快く当時の話などをしてくれた。
彼は原発に関して反対の立場である。そのきっかけはチェルノブイリ原発事故だ。「キノコなど、食材を普段の仕入先から買うことができなくなってしまい、もしもっと近い原発で事故が起こったら……と考えると、反対せずにいられなくなった」と言う。住民投票の際は表立って活動することはしていなかったが、シェーナウ電力会社設立に向けた会議やイベントでは、ホテルの部屋などを提供したそうだ。
「住民投票をしたことによって困ったことはありませんか」と聞くと、「シェーナウ電力に反対の人が、お客さんとして来てくれなくなってしまったのには困ったが、今ではその影響も薄れてきたよ。逆にシェーナウ電力のことを知るために、君のような人が来るようになったんだ」と嬉しそうに答えた。そして、「住民投票を期に原発についての確かな情報が行き渡ったことはとてもよかった」という。これが住民投票の勝因にもなった。
「4匹のライオン」では、地元産の自然な食材やモノを使うことに、徹底的にこだわっている。料理のテーマは「ナイフとフォークで環境を守ろう」。野菜は農薬の使用が少ないもの、ワインも添加物の入っていない地元産だ。海外のワインを、わざわざ輸送のエネルギーを浪費し二酸化炭素を出して取り寄せたりはしない。ホテルのベッドは地元の「黒い森」の木材を使ったもので、部屋の電気は全て省エネ仕様になっている。なるべく環境負荷をかけず、しかも地元の美味しい旬の食材を堪能しながら、ゆっくり休めるのがこのホテルのウリなのだ。食堂で、僕はマスのホイル焼きとサラダを注文した。地産地消とエコというコンセプトも一緒に味わうことができて、おいしさが倍になったような気がした。
ホテルで新たな鋭気を養った翌日、第2回に登場したレナーテさんのご紹介により、ウルズラ・スラーデックさん(シェーナウ電力の代表)との単独インタビューを実現した。ウルズラさんは、2011年に環境保護分野のノーベル賞と言われるゴールドマン環境賞を受賞し、また’13年にはドイツ環境賞も受賞した人だ。電力会社の事務所を訪ねると、非常に多忙ななかでもにこやかに迎えてくれ、私のつたないドイツ語を気遣うように、ゆっくりと話を始めた。――シェーナウで行われた住民投票の概要を教えていただけますか?
住民投票をやりたいときには、まず要請を出すことになります。そのためには有権者の15%の署名を集めなければなりません。当然ドイツの人口規模はどこも同じではありませんから、集めなければいけない署名の量も違います。署名を市役所に提出すると、実在していない人が含まれていないか、重複して署名をしている人がいないかを細かくチェックして、きちんと15%に達していれば住民投票が行われることになります。(※1)署名期間は6週間。日付と苗字、名前、住所が必要です。
住民投票それ自体にかかるお金は自治体が払うけれど、運動に関わるお金はすべて自分たちで用意しければなりません。選挙と同じように投票券が郵便で届き、投票所に行って投票します。選挙との違いは、設問がYESかNOの二択だということ。ドイツでは住民投票が地方自治体でよく行われています。例えば「新しい迂回路の建設について」などです。州レベルでいえば「シュトゥットガルト21」(※2)なんかがそうですね。でも連邦レベルでは行われたことはありません。
※1 日本でいう「常設型住民投票条例」と呼ばれ、ある一定の署名が集まれば議会に否決権がなく必ず住民投票が行われる制度。
※2 バーデンビュルデンブルク州の州都シュトゥットガルト駅の建て替えプロジェクトのこと。莫大な予算がかかるため、2011年に住民投票にかけられることになった。
――政治家が決めることと、住民が決めることには違いがありましたか?
住民投票をすることによって、シェーナウの市民が賛成・反対、両方の意見を出し合って、家族内でも学校でもたくさん話しをすることになりました。違う意見の人どうしが激しく議論することもありました。政治家だけではなく、みなが議論をすることで、自分の意見を構築していく。その過程を経て、最終的に市民がEWS(シェーナウ電力会社)を選び取った。これが大きな違いですね。そしてこれこそが、生き生きと活気に満ちた民主主義なのです。そもそも政治家がきちんと私たちの意見をくみ取って仕事をしてくれれば、私はここまで関わりませんでした。しかし実状はどうでしょうか、私たちの想いとねじれていることが多いのが現実なのです。
――住民投票当時は保守的、つまり、EWSに反対の議員が多かったのですが、なぜ住民投票では勝つことができたと思いますか?
実は、シェーナウに住んでいる人たちは、今でもとても保守的です。選挙ではCDU(ドイツキリスト教民主同盟=保守)を選ぶ人が多い。でも、今回の住民投票のようにある事柄に限った場合、全く違った反応をするのです。一つの事柄に限ると、どちらに投票するべきかが、選挙よりも明確になるからだと思います。
――今でも、賛成派と反対派は対立していますか?
片手で数えられるほどの人はまだ受け入れられないようですが、その他の大多数の人には対立は残っていません。シェーナウ電力は、始めは小さな会社でしたが、今では町一番の大きな会社に成長しました。そのおかげで雇用も増えましたし、営業税はシェーナウ市の2番目に大きな会社の3倍も納めています。そういった直接的な利益もありますし、当然、環境にやさしいという自負もある。間接的にも、シェーナウ電力を目当てにたくさんのゲストが来るので、レストランやホテル、市長も喜んでいます。町の人は「自分たちは正しい選択をしたのだ」と確信しています。
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このシェーナウという小さな町の選択は「正しかった」のか。脱原発は「正しい」のか。見方を変えれば、正しさも変わる。答えは人それぞれにあるだろう。ウルズラさんは、住民投票には「生き生きとした活気に満ちた民主主義」があった、と言う。それは「正しさよりも大切なもの」なのではないだろうか。もし間違っているとわかったら、正せばいい。「活気に満ちた民主主義」があれば、市民が間違いを見つけ、議論し、選択することができるのだ。私は見たい。日本がシェーナウ市民のように「政治家お任せ民主主義」から脱却するときを。住民投票や国民投票を通じて、市民が考え決定する「活気に満ちた民主主義」を実現する姿を。
プロフィール
大芝健太郎(27)旅するジャーナリスト
スイス、リトアニア、ブルガリアなど、ドイツを中心にヨーロッパの住民投票・国民投票を現地取材。「原発」国民投票賛同人。
Blog: http://shibaken612.blogspot.com
2014年7月24日 | コメント/トラックバック(0) |
住民投票で切り拓いた、ドイツ初・市民電力会社の設立: 第二回 シェーナウのまちを訪ねて
都民投票のスタッフだった大芝健太郎氏が、映画「シェーナウの想い」の舞台となったドイツのシェーナウ市を訪れ、関係者にインタビューを行いました。「住民投票で切り拓いた、ドイツ初・市民電力会社の設立」と題して、3回に分けてレポートを掲載します。第2回目では、実際に訪れたシェーナウの町の様子をレポートします。
私は2013年春からハイデルベルク大学付属の語学学校に通っていた。そして訪れた2か月の夏休み。かねてからの計画通り、映画「シェーナウの想い」の舞台を訪れるため、寝袋を持ってコンパスを頼りにとにかく南へと自転車で漕ぎ出した。
いくつかの山を越えながら一週間、ようやく黒い森の南部シェーナウの町にたどり着いた。町の入口には「ドイツの太陽の首都 黒い森のシェーナウ」と看板が掲げられている。名物は「パノラマゴルフ場、ベルヘンランドのハイキング、代替可能エネルギー、草で覆われた谷の大聖堂」であるらしい。長い闘いの末に市民が立ち上げた「シェーナウ電力(EWS)」の扱う代替エネルギーが、今では町の名物の一つになっているのだ。見渡せば、確かに多くの家の屋根には太陽光パネルが設置されており、山の上では発電用のプロペラが風を受けている。夜道を照らすのは、LED電球の光だ。
映画で見る通り、半日もあれば十分全体を見て回ることができる小さな町である。全景をカメラに収めようとちょっと中心部から離れたところで(ちょうどこの写真を撮っている時だ)、後ろから声をかけてくる女性がいた。レナーテ・シュミットさん。地元在住の芸術家である彼女の作品は、町のいたるところで見ることができる。僕がEWSに興味があるのだと告げると「じゃあ、ウルズラ・スラーデックさんに伝えておくわ」と、EWSの代表の名を言うからびっくりしてしまった。聞けばシュミットさんは、初期の「原発のない未来のための親の会」のメンバーの一人であり、スラーデックさんとはママ友どうしだという。彼女が紹介してくれたおかげで、私はスラーデックさんに単独インタビューをさせてもらえることになった。(このインタビューは次回!) そんな出会いにワクワクしながら、ぶらぶらと歩き続ける。たくさんの太陽光発電パネルの中でも、特に大きな存在感を放っているのが、メインストリートから山道を上がったところにあるBergkirche(山の教会)だ。まず、それまで私はドイツで教会に太陽光パネルが設置されているのを見たことがなかった。さらにご覧のとおり、南側の屋根全体を覆うパネルはとても大きいものだ。
このプロジェクトは、住民投票の後、ラインフェルデン電力会社(KWR 既存の電力会社)側とEWS側双方の市民の共同出資によって始められた。つまり、住民投票で分断された町民の、和解のシンボルだ。映画の中ではここで教会の説明が終わるのだが、実はこの話には、もっとうれしくなるような続きがある。太陽光発電を設置することによって得た利益で、教会は新しいパイプオルガンを購入することができたのだ。ドイツ人のネーミングセンスは何のひねりもないことが多いのだが、これもご多分に漏れず「太陽のオルガン」という単純な名で呼ばれている。そしてオルガンの上部には、太陽の模様が誇らしげに輝いている。太陽光発電は15年たった今でも元気に稼働しており、どのくらい発電しているのかを、電光掲示板でいつでもだれでも確認することができる。
歩みを進めるごとに、車や家などいろんなところにEWSのステッカーが張られているのが目に入る。「石炭火力の代わりに温暖化対策を シェーナウからの電気で」とか、「私たちは核のゴミを後に残しません。それに対抗するシェーナウ電力があります」などと書かれている。「核のゴミを残しません」のステッカーが、ゴミ箱に貼られている光景には笑ってしまった。「EWSに興味があって来ました」と言うと、町の人は嬉しそうに当時のことを話して、親切にしてくれる。観光案内所の前を通ると、町のお祭りのために集まる音楽隊に出くわした。彼らにEWSのことなど聞いていると、「演奏しながらパーティー会場まで行進するんだけど、一緒に来ないか?」と誘ってくれる。そのまま音楽祭と食事会に参加させてもらえたのは言うまでもない。その夜泊まったゴールドマンホテルも屋根に太陽光パネルが載せられていたのだが、私の話を聞いて、また貧乏旅行に同情してか、宿泊料金を割り引いてくれた上に昼食までサービスしてくださり、ありがたくも恐縮してしまった。
「シェーナウのみんなは、EWSを誇りに思っているのよ」という人がいる。なぜ、これほどまでにEWSは人々に愛されているのだろうか。私はその背景に「住民投票」の経験があるのではないかと思っている。最終回(次回)で、そのことをお伝えしたい。映画にも登場したEWSの代表、ウルズラ・スラーデックさんと、ホテル「Vier Loewen(4匹のライオン)」のオーナーシェフ、ヴァルター・カーレさんにインタビューし、住民投票や市民運動などについて聞いた生の声をお届けします。お楽しみに!「もっとシェーナウのことを知りたい!」という方にはこちらの本をおススメします。
田口理穂 著「市民が作った電力会社―ドイツ シェーナウの草の根エネルギー革命―」(大月書店、2012年)
プロフィール
大芝健太郎(27)旅するジャーナリスト
スイス、リトアニア、ブルガリアなど、ドイツを中心にヨーロッパの住民投票・国民投票を現地取材。「原発」国民投票賛同人。
Blog: http://shibaken612.blogspot.com
2014年6月18日 | コメント/トラックバック(0) |